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家の大きな門扉の前で、藍澤悠樹(あいざわゆうき)は立ち止まる。
大きなリビングの灯りはともっている。
それを見て、悠樹は軽くため息をついた。
この時間に、リビングに灯りがともっているというのは、これまでは珍しいことだった。
ここ最近は珍しいことではなくなってしまったのだが……。
「おかえりなさい、ぼっちゃん」
が玄関の扉を開けると、お手伝いの篠田典子が少し困ったような顔で、それでも笑いながら出迎えてくれた。
「ただいま。お父さん、帰ってるの?」
「ええ……」
篠田の声音から、父親は帰っているけれども、状態は良くなっていないのだということを察することが出来た。
「ありがとう」
篠田にそう伝え、悠樹はすぐに部屋には向かわず、リビングに足を向けた。
リビングからは父親と母親が話す声が聞こえてくる。
「残る頼みの綱は、漣くんだけなんだが……」
「漣くんとはまだ連絡は取れないの?」
「ああ……日本には戻っているらしいんだが、連絡がつかない。時間が出来たらこちらに連絡するようにと会社のほうにも伝えているんだがな……」
そう言って、父親はため息をつく。
関連会社の不祥事によって、会社が多額の負債を抱えてしまったという話を悠樹が聞いたのは、ほんの一ヶ月前の話だった。
父親は毎日のように銀行や取引会社を回ったが、事態は一向に良くならなかった。
関連会社の不祥事というのが、実にたちの悪い不祥事で、その不祥事によって抱えた負債に援助するという奇特な者は現れなかった。
銀行や関連会社からの融資を諦め、今度は親戚繋がりで助けを求めたが、これも上手く行ってないらしい。
いつ返事が来ても良いように、父親は家にいる時間を増やしたが、今のところ親戚知人からの連絡は皆無のようだった。



「漣さん……?」
ふと思い出したように、悠樹は懐かしい名前を呟いた。
先ほど父親の口から出た名前だ。
セピア色の景色が、頭の中に蘇ってくる。
もう十年も前の話だ。
池月漣、父方の従兄弟の名前だ。
悠樹が8歳だったとき、連は中学3年生……15歳ぐらいだっただろうか。
高校はアメリカのハイスクールに進学すると言っていたので、その年の夏が漣と会った最後になった。
夏休みの一週間ほどを、悠樹たち一家は軽井沢にある別荘で過ごしている。
10年前の夏の日、そこへ遊びにやって来たのが、漣だった。
正月や盆などの集いには、親戚中が集まるので、そこで顔をあわせたことはあった。
けれども、特に漣とだけ遊んだりした記憶はない。
ただ、連は他の親戚の子たちとは違って、何だかとても頼りになる……そんな印象があった。
一人っ子の悠樹にとって、漣はまるで兄のような存在だった。
漣が別荘にやって来て、一週間を一緒にすごすということは、悠樹にとっても楽しみなことだったのだ。
「大きくなったな」
久しぶりに会った悠樹を見るなり、連は声変わりしたばかりの声を和らげて笑い、頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。
以前に会ったときは声変わりなんてしていなかったので、それに少し驚いたけど、ますます大人っぽくなって、ますます頼もしくなったように感じた。
背も驚くほどすらりと伸び、心なしか華奢だった体格にも、筋肉がつき、逞しくなったような気がした。
その一週間は、悠樹にとって最高の夏休みになった。
連は悠樹を毎日のように連れ出し、川で魚を釣ったり、山で昆虫を採ったりするのに付き合ってくれた。
宿題も実にわかりやすく教えてくれながら手伝ってくれ、自分に兄がいたら、こんなふうなんだろうかと思ったものだった。
最後の日の夜、花火を持って近くの川原へいった悠樹は、思わず泣いてしまった。連と別れるのが寂しかったからだ。
漣が来年にはアメリカに行ってしまうのだということも、すでに聞いていたし、今度の正月にはその準備が大変だから親戚の集いには来れないということも連の口から聞いていた。
つまりは、今日を最後に、本当にしばらくの間、漣には会えなくなってしまうのだ。
「悠樹……」
漣の大きな手が、次から次へとあふれる涙をぬぐってくれる。
「漣兄さん……」
悠樹は堪えきれなくなって、漣の体にしがみついて泣いた。
その体を優しく包み込むように抱きしめてくれた漣。
ふと、額に温かい感触を感じた。漣が口付けをしてくれていたのだ。思わずドキッとした。そんなことをされたのは、生まれて初めてだったからだ。
漣はじっと悠樹の目を見つめてくる。
そして、その顔が近づいてきたかと思うと、漣の唇が悠樹の唇に触れた……。
何が起こったのか、理解できなかった。
それがキスというものだと気付いたのは、唇を押し付けられてしばらく経ってからだった。
漣は悠樹の髪や背を手で撫でながら、何度も何度も唇を押し付けてくる。
そして、唇を割り開くように舌を滑らせようとしてきたのだ。
さすがに悠樹はそれが異常な行動だということに気付いた。
気がついたときには、力いっぱい漣の体を押しのけていた。



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EDIT [2011/06/26 12:29] Breath <1> Comment:0
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