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「あ~、終わった終わった~!」
試験を終え、淳平は清々した気持ちで街を歩いていた。
猛勉強の成果もあって、それなりに手ごたえは感じている。
今日は久々に買い物でもして帰ろうかと思い、寄り道をすることにしたのだ。
こういう時に、悠樹がいないことを改めて寂しく感じる。
大学でくだらない話をしたり、昼食を一緒に食べたり、帰りに寄り道をしたり……。
一緒に服を選びに行って、似合うとか似合わないとかくだらないことでもめたり……。
そういう些細なことの積み重ねが、とても大切な時間だったことを思い知らされる。
けれども、どうやら悠樹は春には日本に戻り、大学に復学する予定らしい。
そこまで状態は良くなっているということなのだろう。
昨夜、悠樹からそういう報告のメールをもらっていたから、淳平の足取りは軽かった。
その軽い足取りを止めたのは、偶然に見かけたものに少し驚いたからだった。
「あれは……」
道に横付けされたいかにも高級な黒塗りの外車から出てきた人物を見て、淳平は目を見開いた。
淳平がマフラーをプレゼントしたあの彼だった。
中の人物と親しげに何かを話し、少しして車は彼を置いて走り去っていく。
車の中の人物の姿はよく見えなかったが、おそらく相当の金持ちであろうことは推測できた。
走り去る車を見送って振り返った彼は、淳平の姿に気づいた。
一瞬、彼は戸惑うような表情をした彼だったが、次の瞬間には何事もなかったかのように淳平に背を向けて歩き出した。
その態度に、淳平はむっとした。
気がつけば、思わず彼を追いかけていた。
「ちょっと待てよ!」
肩を掴んで声をかけると、彼は振り返った。
「挨拶もなしとか、あり得ないだろ」
「あり得ない?どうして?」
「どうしてって……挨拶ぐらいしろよ。知らない相手ってわけじゃないんだし……」
「挨拶が必要なの?」
彼の声はどこまでも感情がなかった。
淳平は負けじと反論した。
「必要とかそういう問題じゃないだろ。知り合いにあったら挨拶する。それは当然のことだ」
「挨拶をするほどの知り合いになった覚えはないけど」
「挨拶をするほどの知り合いってどういう知り合いだよ?」
あくまでも自分を拒絶しようとする彼に対して、淳平はわけも解らずにムキになっていた。
「君も変な人だね。どうして僕が挨拶しなかったことが、そんなに引っかかるの?」
「どうしてって……そりゃ、気持ち悪いからだろ」
「気持ち悪い?」
彼は心底不思議そうな顔をして首をかしげた。
「知り合いに無視されたりしたら、俺何か悪いことでもしたかなって思うだろ……」
「そういうことなら、心配はいらない。別に悪いことをされた覚えなんてないし」
「だから……だったら、何で挨拶しないんだよって話なんだよ!」
「そういう習慣は今までなかった。必要がないのに挨拶しなければならないなんて言われたこともなかったし」
「そういうのは言うとか言わないとかじゃなくて、相手に対する礼儀じゃないのか」
「礼儀っていうのは、相手に強要するものなの?」
そこまで言われて、淳平は言葉に詰まってしまう。
確かに、礼儀などというものは、相手に強要するものではないだろう。
彼の言うことには一理ある。
けれども、ここまで食い下がった以上、あっさりと引き下がる気にもなれなかった。
「じゃあ、挨拶するほどの知り合いになればいいわけだよな。よし、そうしよう」
「そこまでするの?」
彼はちょっと呆れたような声を上げた。
「何ていうか……ちょっと意地になってきた」
淳平が少し照れたように笑うと、彼もつられて微笑んだ。
「で、どうやって挨拶するほどの知り合いになるつもり?」
「とりあえず、お茶でも飲みに行こうぜ!」
「…………」
淳平の提案に、彼は何ともいえない微妙な顔をした。
「そんな顔すんなよ。それしか思いつかなかったんだから……」
淳平は言い訳のように言い、ばつが悪そうに頭をかいた。
歩み寄る気のない人間との距離を縮めることは、とても難しい。
「時間がないんだったら、また今度でもいいけどな」
淳平が言うと、彼は
「別に……時間がないわけじゃない」
「じゃあ、行こうぜ。すぐそこに紅茶とケーキの美味い店があるんだ」
そう言って淳平が歩き出すと、彼はおとなしくついてきた。
「そだ、俺は真咲淳平っていうんだ。淳平さんとか淳平くんとか言われるのは気持ち悪いから、淳平でいいぜ」
「解った……」
「で、お前は?」
「僕?」
「名前ぐらい聞いておかないと、お茶するにも不便だろ?」
「……文礼」
「へえ……ひょっとして中国の人?」
「そう」
「日本語上手すぎじゃない?」
「実は日本人なんだ」
真顔でそう言ったので、淳平はあっさりと信じた。
「なんだ、そうなのか」
「本当は中国人だけどね」
「どっちだよ……まあ、いいけど。友達に国籍は関係ないからな」
いつの間に知り合いを通り越して友達にまで格上げされてしまったのだろう……そんなことを考えながら、文礼は淳平の後を追った。



淳平が文礼を連れてきたのは、趣味は悪くはないが、客の9割が女の客というティーサロンだった。
そこに男の二人連れはあまりにも目立っていた。
ちらちらと絶え間なく向けられる視線に、文礼は居心地の悪いものを感じたが、淳平のほうはさっぱりおかまいなしだった。
「俺、今日の紅茶と今日のケーキ!」
さっさと自分の注文を決めてしまってから、淳平はメニューを文礼によこしてきた。
「ケーキは何でもおすすめだぜ。紅茶もなかなかいける」
「ケーキはいらない……紅茶はダージリンを……」
「せっかく俺がおごってやるってのに、ケーキ食わねえの?」
「甘いものは苦手なんだ」
「なるほど。じゃあ、他の店にすればよかったかな」
「いや……別にそういう意味じゃないけど……」
淳平はどうやら馴染みらしい店員に二人分の注文をした。
「いつもこんな店に来るの?」
「悠樹も俺も甘いもの好きだからさ。二人でたまに大学の帰りに来たりしてたよ。さすがに一人で入るのは入りづらかったから、今日は久しぶり」
「なるほど……」
いちおう、こういう店に男が入るのは雰囲気が違うということは解っているらしい。
そう判断して、文礼は少しホッとした。
「そういや……さっきの高級外車、親か何かの?」
「あれは僕の所有者のもの」
「は?」
「車に乗っていたのが、僕の所有者」
淳平はあんぐりと口をあけたまま、文礼を見つめた。
「日本語がおかしかったかな?」
「いや……所有者って、どういう意味だ?」
「そのままの意味だけど」
「なるほど……」
淳平は深く突っ込むのはやめようと思った。
とりあえず、この場は文礼と、せめて挨拶ぐらいは交わせる仲になるための交流の場なのだから。
やがて注文したものがテーブルに並べられると、淳平は嬉しそうにケーキにフォークをさして食べ始めた。
「ここのケーキも久しぶりだな。うん、ぜんぜん味変わってないし」
「よくそんな甘そうなものが食べれるね……」
ちょっと気味が悪そうな顔で、文礼は淳平を見つめた。
「甘いものが食べれないなんて、人生の半分を損してるようなもんだろ」
「甘いものを食べなきゃいけないぐらいなら、半分損したままでいい……」
うんざりとそう答えながら、文礼は紅茶に口をつけた。
温度も香りも、素晴らしく絶妙だった。
確かに、淳平が自信を持ってすすめるだけのことはあると文礼は思った。
「でも、これでひとつ解ったな」
「何が?」
「俺は甘いものが好きで、お前は甘いものが苦手」
「そんなこと……別にこの店に来なくても、聞かれれば答えるよ……秘密にしてるわけでもないし……」
「あ、そうか。でも、まあいいや。これで次は挨拶ぐらいしてくれるだろ?」
無邪気にそう言ってくる淳平に、文礼は軽く息を吐く。
「僕と関わりあうのは、これを最後にしたほうがいいと思う」
「え?何でだ?」
淳平が目をぱちくりとさせると、文礼は苦笑した。
「悠樹には知られないほうがいい。僕の名前も、絶対に出さないほうがいい」
「は?」
さっぱり文礼の言っていることが淳平には解らなかった。
「悠樹……もうすぐ帰国するんだよね?」
「あ、ああ……その予定みたいだけど……」
「やっぱり今日を最後にしよう。ご馳走様……」
「ちょ、ちょっと待てよ……」
引きとめようとする淳平に、文礼は寂しそうに笑った。
「……悠樹があんな状態になったのは、僕のせいだ。僕は悠樹を苦しめたかったんだ。そしてその通りになった。そう言えば、納得してくれるかな?」
「お前……」
唐突な告白に淳平は言葉が出なかった。
そのまま立ち去っていく文礼を追いかけるのも忘れて、しばらくの間、淳平は彼の言葉を頭の中で反芻していた。



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EDIT [2011/09/17 20:40] Breath<SS> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/09/18 19:03] EDIT
>シークレットAさん

コメントありがとうございます!
淳平も怖いもの知らずというか、文礼のことを知らないから何とも思ってないのかなと思います(笑)
文礼の性格は複雑で、私も自分で書いていながら「だから結局何がどうなんだ!?」と言いたくなることもしばしばです(笑)
単純明快な淳平や悠樹には理解しづらい性格なのかもしれません。
ちょっとまた忙しくなり、更新頻度が下がってしまっていますが、気長に続きをお待ちいただければ幸いです(汗)
[2011/09/19 08:09] EDIT
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