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駐車場を出て、漣が向かったのは、銀座にあるいかにも高級そうな時計店だった。
自分の時計でも買うのかなと思っていると、店員に持ってこさせた某高級ブランドの時計を悠樹の手につけてみたりする。
「俺と漣兄さんの腕はサイズが違うと思うけど」
そう言うと、漣は呆れ顔になった。
「何で自分の時計を買うのにお前で試す必要があるんだ」
「いや、それはそうだけど……」
「これはお前のだ」
「え……誕生日、まだだけどな……」
「お前、時計してないだろう?だから買ってやろうと思ったんだ」
「ああ……」
時計は父親や親戚や友人からもらったものなどがあったが、時間を見るのは携帯で済ませていたので、いつの間にか悠樹は腕時計をする習慣をなくしてしまっていたのだった。
「でも俺、たぶん時計はつけないと思うけど」
「俺が買ってやるんだ。つけるだろ」
明らかに断定口調で言う漣に、悠樹は反論する気もなくした。
つけなければ面倒なことになりそうだから、とりあえず腕時計をする習慣が復活するのは確定になりそうだった。
いくつかの腕時計を合わせた中で漣が選んだのは、ダイバーズウォッチタイプのもので、値段はそれなりにするものの、見た目はカジュアルで悠樹が普段着ている服にも合わせやすそうだった。
これなら服に合わないから着けなかったなどといういい訳も出来そうにない。
ラッピングを済ませた箱を受け取ると、漣はそれを悠樹に無造作に手渡した。
「本当にいいの?ありがとう」
とりあえず殊勝に礼を言って受け取る。
受け取らないと、それはそれでまた後が怖い。



店を出て、駐車場に戻るまでの道のりを、漣は時折立ち止まったりしながら歩いていく。
「10年もいないと、ずいぶん変わるもんだな」
「そっか……まだ日本に戻ってきて間がないんだっけ?」
「一ヶ月ぐらいかな……あまりゆっくり街を歩く時間もなかったし」
「一ヶ月……」
一ヶ月といえば、ちょうど父親の会社の関連企業が不祥事を起こして倒産した時期だ。
その煽りを受けて親会社である父親の会社も多額の負債を背負わされ、おまけに社会的な評判も致命的なダメージを受けていた。
きっとそのニュースは、アメリカにも伝わっていたのではないだろうか。
「ひょっとして、漣兄さんが日本に戻ってきたのは父さんの会社のことがあったから?」
「叔父さんの会社のことは知っていたが、それとは別だな。時期が重なったのは偶然だ」
「そうなんだ」
「日本に戻るときに、ひょっとすると叔父さんやお前に会うことになるかもしれないとは思ったけど」
「そっか……」
その予想通り、悠樹の父親は漣に融資の依頼をした。まさか日本に戻ってすぐにかつての叔父から金の無心を依頼されるなどとは思わなかったに違いないだろう。
漣の両親は離婚し、漣は藍澤の家とは血縁のない父親のほうに引き取られた。それでもう叔父と甥の関係でもなくなっていたのだ。
ふいに漣が足を止めたので、悠樹もつられて立ち止まる。
漣が少し驚いたように見つめる先に、一人の青年の姿があった。
髪は肩ぐらいまでのセミロングで、男にしては少し長めだろう。
しかしそれがさらりと似合ってしまうような美しい顔立ちをした青年だった。
年のころは悠樹と同じか、それよりも少し年上かもしれない。
「文礼(ウェンリィ)……」
漣が呟いた名前は、日本人のものではないとすぐに解った。
文礼と呼ばれたほうの男は、微笑と呼ぶにふさわしい笑みを浮かべ、漣のほうへ歩み寄ってきた。
二人は最初英語で話していたかと思うと、いつの間にか中国語のような言葉で話し始めた。
悠樹は英語の日常会話程度なら解るが、中国語になるとまったく解らない。
会話の途中で文礼は何度か悠樹に視線を向けてきた。きっと自分のことを何か話しているのだろうと思ったが、何を話しているのかはまったく解らなかった。
やがて会話はひと段落がついたみたいで、文礼のほうが「再見」と言い、少し背伸びをして漣の首筋に手を回したかと思うと、頬にキスをした。
その動作は実に優雅でいやらしさがなく、まるで映画の1シーンか何かのようだった。気がつくと、周りを歩いていた人たちも、漣たちのことを見つめていた。
漣の首から手を離すと、文礼は悠樹を見て微笑んだ。
「またね、悠樹。お邪魔して悪かったね」
完璧な日本語で挨拶をして悠樹を驚かせた文礼は、微笑を浮かべたまま立ち去っていった。



車の中で悠樹は、先ほど出会った文礼という青年のことを思い出していた。
常識離れした美貌に、英語と中国語と日本語を使いこなす語学力。
ひょっとすると、3ヶ国語だけでなく、もっとたくさんの言葉も使えるんじゃないかという気がした。
ともかく、これまでに出会った数多くの人の中でも、もっとも際立って印象に残る相手だった。
明らかに会話の内容を悠樹に聞かれたくないような様子だった。特に漣が。
英語か大学で専攻しているドイツ語ならば、自分も少しは解るのだが、それを知って中国語を話したのだろうか。
中国語はかなり複雑で、北京語や広東語など、同じ中国語でもまったく違ったりするという。
「…………」
それに、最後のあのキス……あれは親しい友人に対するものとは明らかに違う気がする。
いったいあの青年は、漣とどういう関係なのだろう……。
「どうした?」
信号待ちで車が止まると、漣が声をかけてきた。
「あ、ええと……さっきの人、すごく印象的な人だったなと思って。仕事関係の人?」
「昔の友人」
「そ、そっか……」
昔の友人というのも、変な言い方だなと思いつつ、それ以上聞くのはやめた。昔の友人ということは、今はもう友人でないということになるのではないだろうか。
仲が悪くなって友達をやめたというには、二人の雰囲気はそれほど険悪ではなかったような気もするし。むしろ文礼のほうは漣に対してかなり好意的な態度をとっていたような気がする。
(もうややこしいことは考えるのはやめよう……)
軽く頭を振って、そう思った。漣は常人とはいろんなことが違うのだから、引っかかることをいちいち気にしていたらキリがない。
それに、あの文礼がもしも漣に好意を抱いているのなら、むしろ掻っ攫って行って欲しいぐらいだった。そうすれば自分と漣は元の従兄弟のような関係に戻れるのだし。
そう……だから悠樹が気に病むことは何ひとつないのだ。
むしろ考えなければいけないのは、明日から漣にもらった腕時計をして大学に行くことを、淳平になんと言って説明しようということだ。不自然でない理由を明日までに考えておかなくてはいけなかった。
何しろ、淳平から誕生日にもらった腕時計でさえ、悠樹は箱にしまったままなのだから。
そっちのほうが、はるかに重要なことだったので、悠樹の頭からは文礼の姿はすぐに消えてしまった。



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EDIT [2011/06/29 18:17] Breath <1> Comment:0
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