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ベッドの上で文礼は、これから2つの会合を梯子しなければならないという汪の着替える様子をぼんやりと眺めていた。
彼の本名は知らない。
本物の汪が生きている時から汪と同じように呼ぶようにと言われていたからだ。
偽者の汪との行為はひたすらに怠惰で刺激もなく、文礼にとっては作業の一環のようでもあった。
面倒だと思うことはあるが、それで今の自分の立場と弟のことを守ることが出来るのなら、大した労作業でもない。
かつての汪ならば、着替えから食事の世話まで、すべてを文礼に手伝わせていたものだが、今の所有者である汪は、そういうことまでを要求してこない。
だから文礼は、行為後の体のだるさを感じながら、ベッドの上で寝そべっていた。
「では、行ってくるよ」
「うん」
汪がベッドの上の文礼に唇を重ねてきたので、それを受け止める。
キスだけはねちっこかったが、大した労苦でもない。
「いってらっしゃい」
文礼が微笑むと、汪は嬉しそうに笑って部屋を出て行った。
スイートルームのベッドに手足を投げ出しながら、文礼は窓の外に目を向けた。
夕方の気配は近づいてきているものの、まだ外は明るい。
文礼は気だるそうにサイドテーブルに手を伸ばし、携帯電話を取った。
「20分後に出かける。車を回しておいて」
用件だけ言って電話を切ると、文礼はベッドから飛び降りてバスルームに向かった。



きっちり20分後、ホテルの前に雀喩の運転する車がやって来た。
文礼は後部座席に乗り込んだ。
「どちらへ?」
「ん……渋谷あたり」
「何か用事でも?」
「別にそういうわけじゃない」
いつもの気まぐれだと理解したのか、雀喩は何も言わずに車を走らせた。
「来週には日本を発つんだっけ?」
「そうですね。そのような予定だと聞いています」
「しばらくは戻れないかな……」
「おそらく……手続きや挨拶もありますし」
「面倒だな……」
来週には春節祭のために中国に戻り、その後、養子の手続きを終え、その披露のための宴が山のように予定に組み込まれている。
汪が忙しくしているのも帰国が迫っているからで、一度帰国したら、当分は日本に来る時間がなくなるだろう。
「あ、ここでいい……」
人通りの多い繁華街に入る手前で文礼は車を降りた。
「帰りはまた電話する」
雀喩は文礼の言葉に頷いて車を走らせた。
車が去っていくのを見送って、文礼は特にあてもなく歩き出した。
休日ということもあって、人の姿が多かった。
文礼は昔から人の多いところが好きだった。
中国に住んでいたときも、市場に行くのが好きだった。
人との付き合い方が下手なくせに、人に囲まれていると落ち着くという矛盾は、彼の矛盾だらけの性格をみごとに現しているようだった。
現在の汪との関係も、そういうところがある。
汪は文礼が体を与えなくても、すべて文礼のいうとおりに動くはずだ。
それほど汪は文礼に対してぞっこんだった。
それなのにあえて体を与えていたのは、文礼が常に人肌の温もりを求めているからなのかもしれない。
「あれ……?」
聞き覚えのある声が聞こえて、文礼はやはり違う場所にすれば良かったと後悔した。
街を歩いていれば会う可能性はあると考えていたが、正直言って、声をかけられるとは思わなかった。
前回会った時に、文礼は悠樹との複雑な関係の一端を告白したからだ。
おそらく、彼はもう悠樹を傷つけた原因の中に文礼が含まれていることを理解しているはずだった。
なのに、彼はまっすぐに文礼を目指して歩いてきた。
「また今日も寒そうな格好をしてるな……」
呆れたように笑って、彼……淳平は自分のマフラーを外し、文礼の首に勝手に巻きつけてきた。
「じゃあな、風邪ひく前にちゃんと迎えに来てもらえよ」
「ちょっと……」
勝手にマフラーを巻きつけるだけで立ち去ろうとする淳平を、文礼は思わず呼び止めた。
「何だ?」
きょとんとした顔で、淳平は振り返る。
「こんなの……もらう理由がない」
そう言って文礼は巻きつけられたマフラーを外して淳平につき返した。
「寒そうだからってのは、理由にならないのか?」
「別に寒くない」
そっけない文礼の言葉に、淳平は困り果てたような顔をした。
「俺が寒くなるんだよ。そんな格好して歩いてると……」
「僕は君に親切を施されるような人間じゃない」
きっぱりとそう言われ、淳平はようやく気づいたとでもいうように、頭をかいた。
「ああ……別に施しってわけじゃない。でも、そう感じたんだったら、ごめん……」
「謝るなよ……」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「これを返す。受け取ってくれればいい」
淳平は思わず肩をすくめた。
「別に、それをもらったからって、困るようなことじゃないと思うんだけどなぁ……なんでそんなに難しく考えるんだ?」
「君が単純すぎるだけのような気がする」
「あ、俺の一番気にしてることを言ったな!」
「本当のことだろ」
「お前……けっこうきついな」
「はっきり言わないと、解ってくれそうにない人だから」
「まあ、そうなんだけどさ……」
淳平はあっさりと負けを認めながらも、マフラーを受け取ろうとはしなかった。
「今日はこの冬一番の冷え込みだってさ」
「それが?」
「返さないほうがいいと思うけど」
「もう放っておいてくれないか」
「放っておけたらいいんだけど……」
「それとも……何か目的でもあるわけ?」
挑むように見据えてくる文礼に、淳平は思わず苦笑した。
「だから何もないって。俺は単純馬鹿だから、何かを考えてたら全部顔に出るんだよ」
「とにかく、これは返す」
「頑固なやつだなぁ……まあ、暇だったら、ちょっと付き合わないか?どこかで温かいものでも食おうぜ」
「…………」
自分の日本語のどこかがおかしいのだろうかと文礼は思いたくなった。
ここまで話が通じない人間というのも、珍しいだろう。
それとも……わざとはぐらかしているのだろうか……。
文礼は少し興味が沸いて、淳平の顔を見た。
「場所を任せてくれるのなら、付き合ってもいいけど」
「よし、じゃあ任せる」
「こっち……」
文礼はマフラーを握り締めたまま、淳平の腕を引いた。



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EDIT [2011/10/16 10:08] Breath<SS> Comment:2
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/10/16 13:48] EDIT
>シークレットAさん

いつもコメントありがとうございます!

SSのほうは更新が遅れに遅れまくってすみませんでした(汗)
淳平はお人よしすぎで、いろいろ損してる部分があるなぁと思います(笑)
本人がそれを損と思っているかどうかは謎ですが。

悠樹もまたちゃんと別のお話を書こうと思っていますので、気長に待っていてもらえると嬉しいです♪

Moon Dropのほうも、いつも応援ありがとうございます♪
鷹臣は確かに、属性はおじさんかもしれないですね(笑)
設定は高校生ですが、私もたまに彼が高校生だということを忘れてしまいそうになります(笑)

最近は更新時間が少し遅くなることもあって申し訳ないですが、何とか頑張って毎日更新続けていこうと思っていますので、また読みに来ていただけると嬉しいです♪
[2011/10/17 08:04] EDIT
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