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結局、引越し初日は荷物に手をつけることすら出来なかった。
夜に一度解放されて、漣が作ってくれた食事を一緒に食べたが、そのあとはまた漣が狼男になって襲い掛かってきた。
そして結局、明け方近くまでベッドで悠樹は責められ続けたのだった。
一週間ぶりの情交は、どちらにとっても刺激的で、理性も制御も何もかもぶっ飛んでしまったようだった。
翌日の日曜日、悠樹が目覚めたのは昼をとっくに過ぎた時間だった。
一緒に横で眠っていたはずの漣の姿はなく、悠樹は一人でベッドに取り残されていた。
サイドテーブルに目をやると、そこには漣の字でメモが残されていた。
どうやら仕事に行ったらしい。キッチンに食事を作って置いてあること、今日は出かけずに休んでいるようにというようなことが書いてある。
引越しの荷物に手をつけなければと思うものの、体をベッドから起こすことも難しいぐらい全身がだるかった。
それでも何とか身を起こし、ふらふらとしながらもリビングへと向かう。
水を飲もうと思ってキッチンに行くと、綺麗に盛り付けられたブランチが置いてある。エビとレンズ豆使ったサラダや、クリームチーズやサーモンを挟んだベーグルなどだ。
昨日も少し漣が作った料理を食べたが、その味はプロが作ったものかと思うほどだった。
さすがにアメリカ暮らしが長いこともあって、食事のほとんどはアメリカンスタイルらしい。アメリカの中でもヘルシー思考が強いニューヨークの店で食べたものを真似て作っているのだと本人は言っている。
実際に悠樹は高校のときに父親に連れられてニューヨークに行ったことがあるが、確かにそこで食べたものの味にとてもよく似ていた。
昨日さんざん体を虐められたおかげで、いつもは朝食などほとんど食べない悠樹も、空腹を感じていた。ありがたく漣が作ってくれた食事を食べることにする。
冷蔵庫にはこれも手作りのジュースまであって、それをグラスに注いで、食事と一緒にリビングのテーブルに置く。
ベーグルもサラダも、とても洗練された味がして、ジュースはいかにも体に良さそうな味だが美味しかった。
自分で料理を作らなければならないほど金に困っているわけではなさそうなのに、ここまで料理が出来るのは本当にすごいし、これは一種の才能なのではないかとベーグルをかじりながら悠樹は思う。
悠樹は父母に心配されたとおり、料理を作ったこともなければ、洗濯や掃除もすべて家政婦任せだった。だから何もかもすべて自分でやってしまう漣を、素直にすごいなと思えた。
「でも普通の恋人だったら……こういうことって彼女がやるものだよな……」
思わずそう呟いて、悠樹は顔が熱くなるのを感じる。
男同士だから、どちらかが彼女になるとしたら、それは自分なのだろう。
体のほうはひと足先に馴染んでしまっているのに、気持ちのほうは自分が恋人であると自覚できていなかった。もちろん、これからもそんなことを自覚することはないと思うのだが、それでも自分と漣の関係は恋人であることは間違いないのだ。
改めて自分が漣の彼女的な存在であり、漣が自分の彼氏的な存在であると考えると、自分で考えておきながら妙に気恥ずかしくなってしまう。自分たちが男女の恋人だったらという仮定は、悠樹にとっては実に生々しいたとえだったのだ。
悠樹は頭を何度かぶんぶんと振って、今考えていたことを頭の隅に追いやった。



結局、日曜日は漣は仕事で家に戻ってくることが出来ず、何度か電話とメールで連絡を取り合っただけだった。
月曜日は初めて漣のマンションから大学に向かった。
以前の家よりも通学時間が30分ほど短くなったのは、とてもありがたいことだった。たぶんそれが、この引越しで唯一……というかたった一つ悠樹にとって喜ばしいことだったかもしれない。
大学に到着すると、門のところで淳平が待っていた。
「おはよ」
「うん、おはよう」
「新しい家はどう?」
「う、うん……なかなか住み心地が良さそうだったよ」
「そうか。それなら良かった」
ホッとしたような顔で淳平は言う。
突然決まった引越しだったし、初めて家を出ることになった悠樹を淳平なりに気遣ってくれているのだろう。
一緒に校舎のほうへ向かおうとした悠樹は、そこに見覚えのある人物の姿を見つけた。
相手は最初から悠樹を見つめていたみたいで、目があうと微笑を浮かべた。
戸惑う悠樹に構わず、相手は歩み寄ってくる。
「偶然だね。この大学に通ってたんだ?っていうか、僕のこと覚えてる?」
先日、漣と一緒に街へ出たときにあった文礼(ウェンリィ)だった。この印象的な青年を忘れるはずもなかった。
あの日、英語と中国語で漣と会話していた彼は、今は訛りのない完璧な日本語を話している。
「うん……えっと……文礼……?」
「そう、覚えていてくれて嬉しいよ」
「大学に用?それともまさか俺に用が?」
「用事は大学に。だからさっき偶然って言ったんだよ」
「そっか……」
「何だか僕と君は、とても縁があるような気がするね」
「はは……そ、そうだね……」
隣に淳平がいるというのに、いったいどのような反応をして良いか解らず、悠樹は引きつった笑いを浮かべる。
「これ以上悠樹を困らせたら漣に叱られそうだし。今日はここで。またゆっくり食事にでも誘うよ」
「あ、ああ……うん……」
曖昧に頷いてしまってから、悠樹はちょっと後悔した。本当に食事になんて誘われたら困ってしまう。けれども、いまさら取り消すわけにもいかなかった。
「それじゃ、またね」
最後まで一言も、英語も中国語も喋らず、文礼は去っていった。
いったい大学に何の用事があるのだろう。
それも不思議だったが、不思議なのはそもそも文礼の存在すべてが不思議だった。
「知り合い?」
淳平の声で悠樹はハッと我に返る。
「あ、う、うん。従兄弟の知り合い……みたい」
「へえ……でもなんか悠樹に似てるよな」
「え?ど、どこが!?」
「雰囲気はまったく違うんだけど、何となく似てる。悠樹が色っぽくなるとああいう感じ?」
「色っぽくって……」
悠樹が少し苦笑しながら言うと、淳平のほうも苦笑を返してきた。
「ああ、男に対してあんまりそういう言葉は俺も普段は絶対に使わないけど、あのオーラを説明するのは色気って言葉しかないんじゃないかな。しかも、周りが放っておけないぐらいに強い」
「そ、そうか……なるほど……」
言われてみれば、何となく納得できた。
彼が横を通ると、それだけで人が驚いて振り返る。男も女も。目を離せない雰囲気というのを、彼は確かに身にまとっている。
それにしても、文礼と自分が似てるなどとは思いもしなかった。
悠樹の目からすれば、文礼などはまったく異質の人間だ。似てる部分がひとつだってあるとは思えない。
けれども、他人である淳平の目から見れば、そういうふうに見えるものなのかと悠樹はまるで他人事のようにそう思った。



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EDIT [2011/07/01 09:54] Breath <1> Comment:0
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