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悠樹が漣のマンションで暮らすことになってから、一ヶ月が経とうとしていた。
「ん~……なにが悪いんだろ……」
悠樹は大学から帰るなり、キッチンで格闘していたが、夜も更けてそろそろ漣が帰ってくる時刻が近づいてきても、その格闘は終わる気配がなかった。
「あ……駄目だ。失敗……」
インターネットの料理レシピサイトで見た人気料理ランキング上位の煮込み料理を作ろうとしたのだけれど、なぜだか悠樹には美味しく作ることが出来なかった。
「おかしいなぁ……何が悪いんだろ……」
この一ヶ月の間、普段の料理はすべて漣任せだったのだが、今日は大学で淳平からインターネットの料理レシピサイトの話を聞いて、ちょっと作ってみようと思ったのだ。
淳平の姉が、彼氏の料理を作るときによく活用しているサイトらしい。
そのレシピサイトを見ながら作ったら、淳平にも美味しい料理が出来たのだという。それで競争心を煽られたというのもあったかもしれない。
淳平にできるものが、自分に出来ないはずはない……はずだった。
とりあえず冷蔵庫の中の素材を確認して、それを使ってできるものを検索した。
レシピは画像を交えてわかりやすく書いてあったので、悠樹にも人気料理が作れるものとばかり思っていた。だが甘かった。
「これは……捨てちゃったほうがいいかな、さすがに……」
味見をしただけで、自分の食欲が一気に失せてしまうほどの不味さだった。
いちおう、ちゃんと出来れば立派な北イタリア料理になるはずだったのだが……。
ため息を吐いて、料理を処分してしまおうと思ったとき、玄関が開く音がした。
悠樹は鍋をそのままキッチンにおいて、玄関まで漣を出迎える。
「おかえりなさい」
漣の帰りは早かったり遅かったり、その日によって時間が違う。
今日はメールで知らせてくれた時間より少し早い。
それでももう23時も近くて、今日も仕事が忙しかったのだなと思った。
漣は悠樹を抱き寄せると、唇を重ねてくる。
いつもこうしてしばらくの間唇を重ね、満足するとようやく悠樹を離す。
「メシは?」
外食しているかもしれないということも考慮して、いつも漣は帰ったらまずそれを聞いてくる。食べてないと言うと、漣はスーツの上着だけを脱いで、二人分の食事を手早く作ってくれるのだ。
「え、ええと……ちょっといろいろ失敗して……」
「失敗?」
上着を悠樹に預け、ネクタイを緩めながら漣は怪訝そうに首をかしげる。
「うーん……とりあえずごめんなさい」
「……どうしたんだ?」
「ええと……本当にごめんなさい……」
漣はますます怪訝そうに顔をしかめ、悠樹の顔を覗き込んでくる。
「何があったんだ?」
漣の目は気遣わしげなもので、悠樹に何か良くないことがあったと疑っている。実際にそんなことは何もなかったので、悠樹は慌てて首を横に振った。
「ち、違う、違うから。何かあったとかじゃないんだ。えっと……こっち来て……」
そう言って悠樹は漣の腕を引いてキッチンに向かう。
そこには悠樹の数時間に及ぶ格闘の後が残されていた。
「ええと……たまにはその……俺が料理でも作ろうかなと思ったんだけど……ご覧の通りの有様で……」
悠樹は申し訳なさがいっぱいで、漣の顔を見ることも出来なかった。
「材料を無駄にしちゃったし、せめて片付けだけでもって思ったけど、漣兄さんが帰ってくるまでに間に合わなくて……」
漣は何も言わずに、鍋の中を覗き込んだ。
そしてスプーンをひとつ取り出すと、スープの味を見る。
「あああああ、駄目だって!すっごい不味いから!水……水ッ!!」
悠樹は慌てて冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出して漣に渡そうとした。しかし、漣のほうは特に不味そうな顔もせず、ちょっと考えるような仕草をする。
「惜しいな」
「え……」
「ちょっと手を加えれば、ちゃんと食えるようになる」
「ほ、ほんと!?」
悠樹の反応を見て、漣は珍しく笑った。
「とりあえずお前は座ってろ」
「う……ごめんなさい……」
「肉の煮込み方は間違ってないし、きちんと出来ている。だから、そんなに時間はかからない」
とりあえず漣の邪魔をしないように、悠樹はリビングのソファに避難する。
てっきり捨てるしかないと思っていただけに、手を加えれば大丈夫と言われて嬉しかった。
肉の煮込み(だけ)はちゃんと出来ていると言ってくれたことも嬉しかった。
待つこと30分弱で、悠樹の作った料理が生まれ変わって運ばれてきた。
煮込み料理だけではなく、サラダやガーリックトーストまでついてきて、あのひどかった料理が一気に豪華なディナーに変身した。
「うわー、すっごーい!」
悠樹は真面目に感動した。と、それと同時に、煮込み料理がいったいどこまで修正されているのかが気になった。
自分のせいで、漣の料理のランクが落ちてしまっては申し訳ない。
「食ってみろよ」
悠樹の心配を見透かしたかのように、漣は煮込み料理を取り分けてくれた。
「あ、ありがとう……」
こわごわ口に運んでみると、自分で味見したときとはまったく別物の味がそこにはあった。
「これ……一から作り直したりしてないよね?」
「馬鹿。そんな時間があるか。ちょっと手を加えただけだ。スパイスを調整して、少し野菜を足した程度だぞ」
「へえ……それだけでこんなに違うんだ」
「ちゃんと勉強すれば、お前にも出来る」
「そっかぁ……やっぱりいきなりハードルの高いものを選びすぎたのかな」
「煮込み料理は初心者にも失敗が少ないものだが……もう少し簡単なものを今度は作ってみるといいかもな」
「うん、そうしてみる」
今度レシピサイトを検索するときは、初心者でも出来るものの中から探してみることにしようと悠樹は思った。



二人で手分けしてキッチンやテーブルの後片付けをして、食後のコーヒーだけは悠樹が淹れて、ソファで寝るまでの時間をのんびりとすごす。
二人ともそれほどお喋りではないだけに会話は途切れがちだったが、そのことにも一ヶ月も経てば慣れてきた。
最初のうちは何かを喋らないといけないと思ったりもしたが、何も喋らなくても気にならなくなった。
気がつくと、英字新聞を読んでいたはずの漣が、悠樹を見つめていた。
「あ……」
顔を上げた悠樹を見て、漣は優しく微笑む。
「今日はありがとな。料理作ってくれて」
「あ、う、うん……失敗して返って迷惑かけちゃったけど……」
「いや……まさか料理を作って待っててくれるとは思わなかったから嬉しかった」
「そ、そか……良かった……」
今さら淳平に張り合って作ってみようと思ったのだとは言えず、悠樹は重ねてくる漣の唇を受け止める。
「ん……ッ……」
今日の漣はやけに優しくて、悠樹の頬や首筋や背を撫でながら、何度も何度も唇を重ねてきた。
悠樹も漣の背に手を回し、愛撫を自ら受け入れていく。



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EDIT [2011/07/02 14:05] Breath <1> Comment:0
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