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近所のスーパーで猫用のドライフードを買って来た弘海は、自分のスープ用の皿にそのドライフードを盛り付けた。
「ほら、カリカリだ。ちょっと奮発したんだぞ」
ちょっと恩を押し付けるように弘海は言い、黒猫の前に皿を差し出した。
黒猫は少し匂いを嗅ぐと、そのまま皿に顔を突っ込むと、カリカリと音を立ててドライフードを食べ始めた。
「腹減ってたんだな」
弘海は微笑んで、黒猫が食事をするのを見守った。
時折、手を伸ばして額の辺りを撫でると、黒猫は嬉しそうに目を細めた。
「クロ……お前はクロだな」
弘海は黒猫に名前をつけた。
「クロ!」
そう呼んでみたが、黒猫は一向に興味を示さず、ドライフードをカリカリと音を立てて食べた。
「うーん……クロっていう名前が気に入らないのかな……」
つまらなさそうに弘海が言うと、黒猫はじっと弘海を見つめ、こくんと頷いたように見えた。
「…………」
弘海はしげしげと黒猫を見つめた。
黒猫はもう何事もなかったかのように、後ろ足で耳を掻いている。
「お前……人間の言葉が解るみたいだな……」
弘海は言ったが、今度はまた皿に顔を突っ込んで、無心になってドライフードを食べ続けた。
「っと……シャワー浴びてもう寝ないと……」
弘海は立ち上がり、バスルームに向かった。



「寝てる……」
弘海がシャワーを浴びて部屋に戻ってくると、黒猫は腹が膨れたためか、寝息を立てて気持ち良さそうに眠っていた。
傷口が傷むような様子もないし、数日保護していれば元気になるだろう。
その後のことは、またその時に考えようと弘海は思った。
「そういえば……マンションの契約書まだ見てなかったな……」
書類一式を放り込んである引き出しを開け、マンションの契約書を取り出してみた。
「お、いちおうペット可なのか」
弘海はちょっと安心した気持ちで、書類を引き出しの中にしまった。
とりあえずこの黒猫を保護する分には問題はなさそうだった。
安心すると、急激に眠くなった。
このところは休みも少なく、過酷なシフトが多かっただけに、疲れが溜まっているのかもしれない。
「明日出勤すれば次の日は休みだし……そうしたらゆっくり寝よう……」
黒猫の毛並みを撫でながら、弘海はソファに横になった。
まぶたが鉛のように重い。
「ベッドで寝ないと……」
そう思いながら目を閉じた弘海は、結局朝までソファで眠ることになった。



「うわっ、やべっ!」
翌日、早出の弘海が起きたのは、出勤時間の十五分前だった。
駅まで歩いて十五分、小走りで十分弱かかるから、ほとんど遅刻は確定だ。
慌てて飛び起きた弘海は、とりあえず洗顔と歯磨きを済ませ、着替えを適当にして、マンションの部屋を飛び出した。
黒猫のえさは昨日の夜に皿の中に足しておいたから、おそらく今日一日ぐらいは持つだろう。
弘海はマンションのエレベーターを出ると、駆け出すようにバイト先のベーカリーショップへと向かう。
まだ夜中かと思うほどに暗い空には、星が瞬いている。
春が近づいてくればこの時間でも東の空は薄く明るくなってくるのだが。
まだ真冬のこの時期は、東を見てもやはり真っ暗だった。
白い息を吐きながら、弘海は小走りで店に向かった。
店に到着すると、すでに明かりがともっていた。
出勤時間を2分ほど過ぎていたので、弘海は制服に着替え、慌てて店に駆け込んだ。
「おはようございます」
弘海が店に入っていくと、ちょうどオーナーの橘が準備を始めているところだった。
「おはよう」
いつものことながら、どこの芸能人かと思うような爽やかな笑みを浮かべ、橘は弘海を迎えた。
「すみません、ちょっと遅れました」
弘海が詫びると、橘は怒るような様子もなく微笑んだ。
「弘海が遅れるのは珍しいな。何かあったのか?」
「実は昨日、猫を拾って……」
弘海はとりあえず、言い訳がましく昨夜の黒猫の話をした。
橘は素直に弘海の話を聞き、同情するような顔をした。
「ただでさえシフトが過酷で疲れてるのに、猫が迷い込んできたんじゃ大変だったな」
橘は素直に同情してくれたが、何だか弘海は申し訳ない気持ちになった。
「いや……今日のはただの寝坊です。本当にすみません」
「年末だし無理をさせてるのはわかってるから、もう気にしなくていい。年が明けたら長期のスタッフも増やして、お前の負担が軽くなるようにするから」
「大丈夫です!俺、何人分でも頑張りますから!」
年末の多忙な時期に向けて雇ったバイトが、次々に辞めてしまい、あっという間に人手は足りなくなった。
その穴埋めをするための時間もないから、結局レギュラーのメンバーの負担が増えることになった。
特に弘海のように製造も接客も出来るとなると、休む暇もないほどに出勤しなくてはならない状態だった。
この店のバイトは確かに過酷だが、慣れてくればそれなりに雰囲気も良く、待遇も悪くないので、長く続く者が多い。
ただ、短期のバイトだと、その過酷さに驚いて逃げ出しだしたくなるのは無理もない話だと弘海も思う。
橘がてきぱきと仕込みをしているのを見て、弘海はその手伝いをする。
毎日のことだから、自分が何をすれば良いのか、弘海はきちんと理解していた。
「これ、オーブンに入れていきますね」
「ああ、それと、そっちのオーブンがもう焼きあがると思うから」
「はい。解りました」



「ちょっと休憩しよう。コーヒーを入れたから」
数時間ほど忙しく働き、開店まであと僅かとなったところで、橘が声をかけてくれた。
開店前に店に並べるパンはほぼ焼きあがり、あとは店頭に並べていく作業が少し残っている程度だった。
「これ、弘海の分」
「ありがとうございます」
橘からコーヒーを受け取って、弘海は一息ついた。
「あ、そういえば……一昨日の通り魔事件って犯人捕まったんでしたっけ?」
弘海は気になって橘に聞いてみた。
昨日は店が忙しくて、詳しい話までは聞くことが出来なかったからだ。
「まだ捕まってないらしいけどな……ただ、襲われたほうの人も、行方が解らないらしいよ」
「え? そうなんだ?」
「うん。犯人と被害者の両方を警察が捜してるらしい」
「へええ……そんなことってあるんだ……」
「被害者が行方不明っていうのが……何だか物騒だよな。無事に見つかればいいけど……」
「ですよね……犯人に捕まって……酷い目にあっていなきゃいいけど……」
「犯人も被害者も男らしいけど……何だかそれもちょっと変わってるよな……」
立花の言葉に、弘海はちょっと目を見開いた。
「へええ……被害者も男なんだ?」
「しかも、髪がちょっと長めで服装も派手だったらしい。長身で体格も悪くはなかったらしいんだが、歩いているところを突然襲われて、右手を切られたらしい。現場にはかなり出血した跡があったそうだよ」
「そこまで解ってるのに見つからないんだ?」
「そう。犯人も、被害者も見つかっていない。目撃者はかなり多かったらしいんだけど」
「変な事件だな……」
弘海は改めてそう思った。
最初はよくある通り魔事件かと思ったが、話を聞いて見ると、何だか少し違うような気もする。
「弘海も気をつけろよ。男だからって、油断するんじゃないぞ」
「解ってますって。十分気をつけてます」
橘は時に弘海に対して過保護で、必要以上の心配をすることがある。
保護者のいない弘海を気遣ってくれているのだとは思うが、それがたまに気恥ずかしくてたまらない時があった。
でも、橘に気遣ってもらえることは、弘海にとっては嬉しいことだった。
こんなことを考えると恐れ多いと自分でも思うが、橘は家族のない弘海にとって、家族のような……もっとも身近で気を許すことの出来る人間だった。



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EDIT [2011/12/27 08:02] 猫目石のコンパス Comment:0
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