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「お先に失礼します。お疲れ様でした!」
仕事を終えた弘海が店を出ようとすると、ちょうど店長の三芳も店を出るところだった。
「あ、店長も今日はあがりですか?」
「ああ。ちょっと用事があるんだ」
「ひょっとして、デートですか!?」
街はクリスマスイルミネーションに彩られ、クリスマスソングが鳴り響いている。
そんなノリで弘海は軽口を叩いてみたのだが。
「いや……今度新しくうちのパンを卸すことになったレストランに挨拶に行くんだ。つまり仕事」
「わわ、すみません……余計なことを言いました」
「ついでに言っておくと、デートをするような相手はいないぞ」
「ええ? そうなんですか!?」
弘海は素直に驚いた。
三芳のような色男なら彼女の一人や二人いても不思議ではないと思うのに。
そんなことを考えていると、三芳はくすりと笑った。
「そういう弘海はどうなんだ? せっかくのクリスマスも全出勤だし。彼女が泣いてるんじゃないのか?」
「か、彼女……いません、俺も」
「はは、じゃあ同じだな。そういうのサミシマスとか言うらしいぞ」
「う、嬉しくない言葉……」
「健介も恋人はいないし。祐一や他のスタッフもあまり浮いた話を聞かないから、うちは仲間が多そうだな」
「サミシマスの仲間ですか……」
「そう」
自分で言っていておかしくなったのか、三芳は声を上げて笑い出した。
「あ、あの……いちおう俺、彼女募集中なんで、可愛い子いたら紹介してください! あ、出来たら俺より身長は低い子で!」
「バイトの面接に来る子以外で女の子と知り合うきっかけなんてないけど……まあ、心には留めておくよ」
「はい、よろしくお願いします!」
弘海自身、彼女のような子がこれまでにまったくいなかった分けではない。
父親が亡くなる寸前、ちょっとだけ良い雰囲気になりかけた子はいた。
相手のほうから弘海に好意を示してくれたのだが、父親が亡くなり、バタバタと高校を中退して働くようになってからはまったく連絡を取らなくなった。
喪も明けて、父の死から落ち着いた今は、素直に彼女がほしいなぁと思う。
「…………」
何となく三芳と一緒に並んで歩き始めると、三芳の長身が際立って見える。
弘海が小柄だから仕方がないのかもしれないが、どうしても話をするたびに見上げる形になってしまう。
「そうだ、弘海。暇なら一緒に来てみるか?」
「え? 今から行くレストランに?」
「ああ。ちゃんと残業でバイト料はつけておくから」
「でも、俺なんて行っても役に立ちそうにないけど……」
「自分が作ってるパンがどういうふうに扱われているか、見ておくのも良い勉強になると思うぞ」
「あ、じゃあ、残業はつけなくていいです! 勉強のつもりでついていきます!」
「そういうところはきちんとしておかないとな。戻ったらタイムカードを修正しておくよ」
「す、すみません……」
「じゃあ行こう。来週からランチを始めるらしくて、手始めにそのランチにうちのパンを使ってくれるらしい。今日はそのランチを見せてもらえるそうだから」
残業代のプラスは生活費の足しになるから、素直にありがたい。
その心遣いに感謝しながら、弘海は三芳の後を追った。



「はぁ……緊張したなぁ……」
「はは……弘海はああいう営業は初めてか?」
「当たり前ですよ! 俺、まだひよっ子ですから!!」
「じゃあ、少しずつあの雰囲気に慣れていったほうがいいな。健介もレストランやデパートでの取り扱いを少しずつ増やしていこうと考えてるみたいだし。お客さんのところに行く時に、実際に製作者を連れて行くと話が早いことも多いんだ」
「今日は緊張して俺……ほとんど何も喋れませんでしたけど……」
スマートに挨拶をし、営業トークを繰り広げる三芳の横で、弘海は「いつもお世話になっています」と言うのが精一杯だった。
「最初はそんなもんだよ。俺だって、まさか自分が店長したり営業したりするなんて思わなかったもんなぁ」
「そういや……橘さんとは同級生なんでしたっけ?」
「そう。いちおう幼馴染だし。高校までは学校も一緒だった」
「橘さんに言われて店を手伝い始めたんですか?」
「最初は見るに見かねてって感じだったかなぁ……何もかも一人でやろうとして、あいつボロボロになってからなぁ……」
「そうなんだ……橘さんにもそんな時期があったんですね……」
「あいつはパン作りに関しては一流だけど、店の経営や従業員の管理となると、まったくその方面の勉強はしてないだろ。その点、俺はいちおう経済学部を出てるし」
「なるほど……」
「今は弘海をはじめ、良いスタッフにも恵まれてるし。ようやく軌道に乗ってきたっていう感じがするよ」
「い、いや、俺なんてホントにもう……失敗ばっかりだし、迷惑ばっかりかけて……」
「健介だって感謝してるぞ。弘海がいてくれて本当に助かってるって」
「そ、それは橘さんも三芳さんも……二人とも優しいから……」
褒められれば褒められるほどに、弘海は自分の無力さや不甲斐なさを反省してしまう。
「そういえば弘海……手袋は? つけない主義だっけ?」
「あ……持ってたんですけど、なくしてしまって……」
「手が寒いだろう?」
「そうですね……給料が出たら買おうと思ってるんですけど」
「せっかくだから、ちょっと見に行こう」
「え?」
「すぐ近くに店があるから」
三芳はそう言ってスタスタと先を歩いていく。
「あ、あのでも……今月はもうあまり余裕が……」
「いいから」
三芳は笑って弘海を促し、ちょっと高級そうなショップに入っていった。
仕方なく弘海もその後を追う。



「三芳さん、いつもお世話になっています」
「この子に合いそうな手袋をいくつか出してあげて」
「はい、かしこまりました」
三芳の隣で弘海は困り果てていた。
店は超がつくほどの高級なブランド品ばかりが並んでいて、手袋ひとつにしても弘海の手が出そうなものではないだろう。
ハンカチだって買えないかもしれない。
いちおうそういうことを弘海なりに伝えたつもりだったのだが、三芳は強引に店に入ってしまった。
(困ったな……また今度買いに来ますとか言うしかないか……)
何しろ、弘海は今月の生活費もとっておかなくてはならないし、今はショーンもいるので、食費は二人分の余裕を見ておかなくてはいけない。
(この間、ショーンに靴を買ってあげたばかりだし……)
ともかくも、今月の弘海の懐には余裕があまりなかった。
「お待たせいたしました。お客様に合いそうな商品をいくつかお持ちいたしました」
「ありがとう」
三芳は差し出された手袋のうちのひとつを手にとって、弘海に差し出してきた。
「手袋は実際に試着してみるのが一番いいから」
「あ、は、はい……」
ここまで来て断るわけにも行かず、弘海は受け取った手袋をはめてみる。
「うわ……あったかい……こんなに薄いのに……それに柔らかい……」
それに縫製も弘海が見ても解るぐらいに丁寧に仕上げられていて、弘海がいつも買うような安売りのものとは別世界のような品物だった。
「こっちも試してみたら?」
今度は別の手袋を差し出してきたので、弘海はそれも試着してみる。
「あ……ちょっと感触が違う。でも、すごく気持ちいいなぁ……」
手袋をはめるだけで気持ちいいなんて、弘海は初めての経験だった。
いちおう手を動かしてみたりしながら、弘海はその感触を確かめた。
「これで最後かな。これも試着してみて」
「あ、は、はい……」
弘海ははめていた手袋を返しながら、次の手袋を受け取った。
「これ……すごい……一番いい感じかも……」
手へのフィット感、そして温かさ、肌触り……すべてをとっても、最高の手袋だった。
「じゃあ、それにしよう」
「え? いや、あの……俺……今月は……」
言いかける弘海の言葉を遮って、三芳は店員にカードを渡した。
「あ、あの、三芳さん……っ!」
慌てて弘海が声をかけると、三芳は軽くウインクしてみせた。
「俺からのクリスマスプレゼント。いつも弘海は頑張ってくれてるから」
「え……でも……」
戸惑う弘海を横目に三芳はさっさとサインを済ませた。



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EDIT [2012/01/07 08:49] 猫目石のコンパス Comment:0
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