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「はぁ……」
夕食を食べるのも忘れて、弘海はため息ばかりついていた。
ショーンは相変わらず死んだみたいに眠っている。
「ため息ばっかりついてても仕方ないよな……もう忘れよう……」
何度もそう思いなおすのだが、橘のあの時の目がどうしても脳裏から離れなかった。
思い出すたびにかぶりを振って、その映像をかき消そうとした。
「明日から俺……普通にできるかな……」
もちろん、告白されたわけでも何でもないので、今でもやはり弘海の思い過ごしという可能性は捨てきれない。
それだけに、仕事場で橘とは普通に接しなければならないと思う。
そうでなければ仕事も気持ちよくこなせないし、自分自身ももやもやとしたままになってしまうだろう。
けれども、橘の顔を見るたびに、あの熱のこもった目で見つめてきた時の彼の表情を思い出してしまいそうだった。
そして、あの時、いったい弘海に何を言おうとしていたのか、考えてしまいそうだ。
橘のことを尊敬しているし、そういう意味ではなく好きな相手だけに、弘海は悩んでいるのだった。
「やっぱり……忘れるのが一番だよな……」
何度目かの同じ言葉を呟いて、弘海はため息をつく。
これからも「ル・レーヴ」で働き、橘の元でパン作りを学ぶのなら、そうするしか仕方がないだろう。
時間が経てば、今日のことだって忘れることが出来るはずだし、橘だって普通に接してくれるはずだ。
気がつくと、ショーンが目を覚まして起き上がり、何だか難しい顔をしていた。
「起きてたんだ。気分はどう?」
「……ちょっとまずいな」
「え……?」
何がまずいのかと聞こうとしたら、先にショーンのほうが口を開いた。
「来るかも」
「ええ? も、もしかして……ショーンを追いかけてるやつ?」
弘海の問いかけに、ショーンは難しい顔をしたまま頷いた。
「ちょっと出てくる。帰りはいつになるか解らないから」
ショーンは立ち上がって玄関に向かう。
「ええ? ま、待ってよ。大丈夫なの? 危ないんじゃないの?」
「……必ずここに戻ってくる」
「ショーン……ちょっと待ってって……」
「鍵をかけて、部屋の中にいろ」
そう言ったかと思うと、ショーンはいきなり唇を重ねてきた。
弘海は目を瞑る暇もなくそれを受け止めたが、すぐにショーンは唇を離した。
「大丈夫だから。何か音が聞こえても外に出るな」
弘海に言い聞かせるように言って、ショーンは部屋の扉を閉めた。
「ショーン……」
不安な気持ちで部屋に取り残された弘海は、しばらくの間、玄関から離れることが出来なかった。
すると、外で異音が聞こえた。
何かと何かがぶつかるような音。
激しい威嚇音。
それとともに、何かが壁に叩きつけられるような激しい音が響いた。
そしてバタバタと何かが駆け出していく音。
「ショーン!?」
我慢できずに、弘海は扉を開けて音のしたほうを見た。
もう何の姿もなかったが、弘海は音がした方向に走ってみた。
「血が……」
そこには決して少なくない量の血の跡があった。



「弘海!?」
「え……」
驚いたような橘の声に我に返ると、ボウルの中の粉がすべて水に流れていっていた。
「す、すみません……」
「どうしたの?」
橘の声は叱責するようなものではなく、心配してのものだったが、弘海は泣きたい気持ちだった。
自分が何をしていたのか、まったく覚えていない。
たぶん、計量した材料と水を混ぜ合わそうとしたのだろうが、実際にはボウルの中の材料はすべて流れてなくなっていた。
「寝不足? 目が赤いけど……」
「はい、ちょっと……」
「何かあったの?」
「いえ……」
それ以上は言えなかった。
言っても理解してもらえるとは思わなかったし、かえって橘に心配をかけてしまうことになるだろう。
「本当にすみません……今日、早退してもいいですか?」
これ以上の迷惑をかけることは出来ないと弘海は思った。
たぶん、今日は仕事をしていても、手がつかない。
社会人として、それが最低のことだと解っていても、今日はまともに仕事をする自信がなかった。
「そうだな……何だか今日の弘海は疲れてるみたいだし。早退してゆっくりするといいよ」
「すみません……忙しい時期なのに。しかも昨日は定休日で休みだったのに……」
「いや、気にしなくていいよ。少しリフレッシュしておいで」
「はい……」
すっかり気落ちした弘海を橘は一切責めることなく、早退を許可してくれた。
ひょっとすると、昨日のことを橘のほうも気にしていて、弘海を気遣ってくれたのかもしれないが。
弘海は素直に橘に感謝し、店を出てマンションに戻った。



「まだ帰ってない……」
マンションの部屋に戻った弘海は、そこにショーンの姿がないのを確認して落胆した。
ショーンが出て行く前までは、橘のことばかりを考えて気分が沈んでいた弘海だったが、ショーンがいなくなってからは彼のことばかり考えていた。
争った形跡があった場所に血の跡があったことも気になった。
「大丈夫かな……」
考えれば考えるほど、とても大丈夫とは思えない。
ショーンは魔力があれば何でもできるが、なければ何も出来ないようだった。
そんな状態で、妙なものに追いかけられたりしたら、相当に危険なのではないかと思う。
それに、今は冬だ。
夜はもちろん冷え込むが、昼だって相当に寒い。
寒さが苦手なショーンが、いったいどんなふうに過ごしているのかと思うと気が気ではなかった。
それに、ショーンがいなくなった後に聞いた音。
相手はおそらく人間ではないような気がした。
人間があんな音を立てることは難しいし、どちらかというと、何か凶暴な動物だと考えたほうが納得できる。
怪我をしたのは、たぶんショーンのほうだろう。
魔力のないショーンに相手に傷を負わせるようなことが出来るとは思えないし……。
「はぁ……」
弘海はショーンがいつも使っていたソファにもたれかかった。
ショーンを探そうにも、どこを探せばいいのか見当もつかない。
店からマンションに戻る間にそれらしい姿を探してみたけれど、見つからなかったし。
それにショーンが何かに追われてここを離れたのなら、どこか遠くへ行ってしまった可能性だってある。
「戻ってくるって……言ってたよな……」
今はその言葉を信じてショーンが帰ってくるのを待つしなかった。



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EDIT [2012/01/15 09:03] 猫目石のコンパス Comment:0
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