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「ほら、お前の口に合うかどうか解らないけど……」
戸棚からショーン用のカリカリを取り出して、皿に入れて黒猫の前に置いてやった。
黒猫はしばらくの間、皿の匂いを嗅いでいたが、やがて腹が減っていたのか、カリカリと良い音を立てながら食べ始めた。
弘海はその様子を微笑んで眺めながら、黒猫の頭を撫でた。
どこかの飼い猫だったのだろうか……かなり毛艶の状態は良い。
けれども、飼い猫にしては空腹を感じているらしいし、最近捨てられたか、迷子になった猫かもしれないが。
「水もちゃんと飲めよ」
猫はもともと砂漠の生き物だったのだという。
だから、水分をあまり必要としない体の構造になっているらしい。
それでも水分をとるのを怠ると、もともと弱い腎臓を悪くしてしまうこともあるらしいので、猫が水を飲みたくなったらすぐ飲めるように常に新鮮な水を置いておかなければならないと何かの本に書いてあった気がする。
弘海の言葉が届いたのか、カリカリを食べて満足した黒猫は、今度は横に置いた水を飲み始める。
「お前はいい子だなぁ……」
思わず弘海は呟いた。
「ショーンとは大違いだ……」
自分勝手で、ワガママで……人の話なんてまったく聞いてくれなくて……。
頑固だし、魔力がないと体が弱いし……。
考えてみれば、良いところなんて探すのが大変なぐらいだ。
「でも……好きだったんだ……」
黒猫は弘海の話を聞くように、じっと顔を見つめている。
「好きだったけど……もう会えない……遠いところに行っちゃったんだ……」
一ヶ月の時間が経って、ようやくその喪失感が薄れてきたところだったのに、黒猫を見てまた思い出してしまった。
考えないようにしようと思っていたのは、思い出せばまた泣いてしまうからだった。
目から涙を零す弘海を、黒猫は不思議そうに見つめている。
膝を抱えて泣き出した弘海の足に、黒猫は頭を何度も頭をこすり付ける。
まるで慰めてくれているようなその仕草に、弘海は泣き顔のまま笑った。
「いいんだ……これで良かったんだ……これでみんな幸せになれるはずだし……」
祐一には迷惑をかけてしまったけれども、たぶんこれで四方八方が丸く収まるはずだった。
だからこれで良かったのだと、この一ヶ月間、自分に言い聞かせてきた。
「もし……ショーンが戻ってきても……たぶん、俺は好きって言えないと思う……だって、俺はショーンを幸せにすることが出来ないから……」
ぺろぺろと手を舐める感触がして、そのくすぐったさに弘海はまた笑った。
「俺だって……今の生活を捨ててショーンの国へ行くなんて……考えられないし……だからたぶん……お互いのためにこれで良かったんだと思う……」
黒猫はぺろぺろと弘海の手を舐めながら、おとなしく話を聞いているような様子だった。
「誰かに自分の気持ちを正直に話したのって、お前が初めてだよ……まあ、お前は猫だけど……」
弘海は涙を拭って立ち上がった。
いつまでも引きずっていてはいけないと思う。
キッチンに立って買ってきた食材を整理しようとしたとき、背後に何かの気配を感じた。
猫ではなくて、もっと大きな……。
「な、何でそこにいるの!?」
いつの間にか、そこに懐かしい顔があった。
黒猫の姿は、もう部屋にはなく、代わりにショーンが立っていた。
「父を説得して戻ってきた」
「せ、説得って!?」
「リュウスを俺の許婚から解放して欲しいと」
「な、何でそんなことするんだよ!? リュウスが可哀想だろ!? リュウスは……ショーンのことあんなに好きなのに……」
「俺はお前しか選ばない。そのことも父に告げた。父は納得してくれた。お前にとって一番問題だったのは、家族の反対だったのだろう? それはもう解決した」
確かに、家族の反対というのは、弘海にとっては大きなものだった。
自分の両親が家族の反対を押し切って結婚し、失敗したり、いろんな悲しい思いをしてきただけに。
けれども、障害はそれだけではなかったはずだ。
「俺は……責任もてないよ……ショーンの国のことまで……自分のことだけで精一杯なのに……」
「俺のことを好きだとさっき言ってくれたな?」
「だ、だから……でも、駄目だよ……ただの恋愛じゃないんだよ? それ、ショーンはちゃんと解ってる?」
「解ってる」
「俺はショーンの国へは行けないし、魔法も使えないし……今の生活だって……自分で一生懸命に切り開いてきたものだし、それを壊すことも出来ないし……」
「それは大丈夫だ。問題ない」
「問題なくないよ……リュウスにだって言われし……俺は国の人間じゃないし、たとえ伴侶になったとしても、いろいろ周りに迷惑をかけるって……」
「それはリュウスが意地悪をしてお前に言ったことらしい。謝っておいてくれと言われた」
「え……? で、でも……」
「父の伴侶も異国人だ。日本ではないが、また別の世界の別の国に住んでいる」
「ええ!? そ、そんなことできるの?」
「父は伴侶のもとへ通う形で婚姻が成り立っている」
「そ、そうなんだ……」
「だからお前が気負うことなんて何もないんだ。俺のことを好きだというその気持ちだけがあればいい」
「で、でも……」
そこまで言われても、まだ弘海は決心がつかなかった。
「俺のことが好きなんだろう?」
確かめるように問われ、弘海は迷った挙句に頷いた。
「好き……」
「だったら、何の問題もないじゃないか」
ショーンの大きな腕に抱きしめられ、弘海は抗うこともなくその胸に顔を埋めた。
「本当に……俺でいいの?」
「ああ……最初から言っているだろう? 俺はお前でないと駄目なんだ」
「ショーン……」
弘海は恐る恐る腕を伸ばして、ショーンの体にしがみつくようにして抱きついた。



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EDIT [2012/02/11 08:49] 猫目石のコンパス Comment:0
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