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「弘海……」
「ん……っ……」
「そろそろ時間だぞ」
「ん~……」
どこか遠くのほうから声が聞こえてきたような気がして、ベッドの中でもぞもぞとしながら、弘海は寝返りを打った。
まだ完全に目が覚めたわけではなく、夢なのか、現実なのかよく解らない状態だった。
「弘海……起きなくていいのか?」
「ん~……」
微かに笑う気配がして、すぐに唇が塞がれた。
「んっ……ぅ……」
さすがにそこまでされると、息苦しさに目が覚めた。
「もう……朝……?」
「ああ、そろそろ起きないとまずいんじゃないのか?」
「何時……?」
目を擦りながら、目覚ましを引き寄せる。
「うわっ、なんで目覚まし鳴らなかったんだよ!?」
「鳴ってたけど……自分で止めてたぞ」
「早く起こしてよ!」
「何度も起こしたんだが……」
「だから三回目はやめておこうって言ったのに……もうっ!」
昨夜、ショーンは夜にやって来て、そのままベッドにもつれこんだ。
今回は国のほうでちょっとしたトラブルがあったらしく、五日ぶりの訪問だった。
一度目と二度目は勢いで、三度目はショーンに求められて押し切られる形で行為に及ぶことになった。
結果、眠りについたのは夜半過ぎ、夜明け前に出勤する弘海にとっては睡眠時間的にきつい朝を迎えることになってしまったのだ。
「眠い……でも、起きなきゃ……」
「ごめん……」
「いいよ……俺も断らなかったんだし……」
眠い目を擦りながらベッドから起き出し、シャワーを浴びた。
弘海が出勤するのと同じぐらいに、ショーンは自分の国へ帰る。
こんな生活が続いてもう三ヶ月になる。
季節はもう五月。
弘海は先月、『ル・レーヴ』の正社員として新しいスタートを切ったばかりだった。
店のメインの商品のうちのいくつかを任されるようにもなった。
高校生や大学生のアルバイトの指導も、三芳が忙しい時などはかわりに行なうことがあった。
そんなふうに責任のある立場になったのだから、遅刻なんて絶対に許されない。
「朝ごはんは作れないけど……向こうに帰ってから美味しいものを食べてね」
バスルームから出た弘海は、ドライヤーで髪を乾かしながらショーンに声をかける。
時間がある時なら、弘海が朝食を作ってそれを一緒に食べたりもするのだが。
さすがに今日は無理だ。
バタバタと着替えを済ませると、家を出る時間になっていた。
「じゃあ、行くね」
「ああ」
「今度は……いつ来るんだっけ?」
「来れたら、明日の夜」
「そっか……もし忙しかったら無理しないで」
「その時はリュウスに伝える」
「うん……」
リュウスは弘海の部屋の隣に引っ越してきて、一緒に同じ店で働いている。
パン作りのほうもなかなか筋がいいので、製造にまわったり、販売に回ったりして、店の中でも重宝される存在になっていた。
ショーンに何かがあったとき……たとえば、来ると言っていた日に来れない時などは、リュウスに連絡が行くことになっていた。
弘海は魔法を使えないので、ショーンからの伝言を直接受け取ることが出来ないのだ。
「じゃあね。気をつけて帰って」
「ああ、弘海も」
「うん」
数日後には会えると解っていても、やはり別れの時は寂しくなる。
時間はなかったが、弘海はショーンに口付けをねだるようにその顔を見つめた。
すぐにショーンの唇が重なってきた。
それほど長くはないキスだったが、それでも弘海は十分に満足した。
もっと一緒にいたいという気持ちを振り払うように、弘海は家を出た。
ショーンもほどなく国へ戻るだろう。
マンションを出た弘海は、駆け足気味に店へ向かった。



店に着くとロッカールームで着替えを済ませ、厨房に向かう。
いつものように、すでに橘は来ているようだった。
けれども、今日は何か少し様子が違う。
厨房に近づくと、声が聞こえてきたのだ。
いつもなら橘が一人で仕込みの作業をしているだけで、そこに弘海が加わって他のスタッフが来るまでは二人で作業を続ける。
誰か別の人間がこの時間に厨房にいることが珍しかった。
近づくにつれ、その声の主がはっきりと解った。
どうやら相手は三芳のようだった。
「断ればいいだろう?」
「そういうわけにも行かない……世話になってるし……」
「そういう態度が誤解されるんだって。お前のお人よしなところは良い部分もあるけど……もう少し人を疑ってみてもいいんじゃないのか?」
「別にお人よしとかそういうのじゃない。不義理なことは出来ないと言ってるんだ」
「でも、俺はこれ以上付き合う必要はないと思うが……もう今はメインバンクだって変えたわけだし。そのために俺が必死に今の銀行にアピールしたんじゃないか」
「だからといって、完全に取引が終わったわけではないし、不義理は出来ない。この件に関してはどこまで行っても宗助と意見は平行線だろうし、放っておいてくれないか?」
弘海は厨房に入ろうとして入ることが出来なかった。
何だか深刻そうなやり取りが続いている。
いつもは仲の良い二人が、いったいどうしたのだろう。
弘海は不安になってくる。
「そろそろ弘海が来る時間だ。もうこの話はやめよう」
「……解った。もう何も言わない」
乱暴に厨房の扉を開けて三芳が出てきた。
ばっちり目があってしまい、弘海は慌てて頭を下げる。
「あ……おはよう……ございます……」
「おはよう」
まだ少し苛立った様子で三好は言い、そのまま立ち去っていった。
入りづらい気持ちはあったが、弘海は厨房の扉を開けて中に入る。
「おはようございます」
「ああ……おはよう……」
「ええと……今日もいつもと同じでいいですか?」
「そ、そうだな……ああ、クロワッサンの生地を多めに作っておいてもらえるかな?」
「はい、解りました」
事情を聞くのも何だか憚られ、弘海はとりあえず目の前の仕事に集中することにした。



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