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「三芳さん!」
黒猫のショーンを抱いて駆け寄ると、三芳はちょうど車に乗り込もうとするところだった。
特にいやな顔や警戒するような顔をする様子もなく、三芳は首をかしげた。
「あの……ちょっとお話してもいいですか?」
「どうした?」
「いえ……あの……その……特に何がどうしたってわけじゃないんですけど、その……」
「乗るか?」
三芳が車の助手席を指差したので、弘海は頷いた。
車に乗ろうとして、弘海は慌てて思いだしたように聞いた。
「あ……猫も一緒に乗って大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。俺も昔は猫を飼ってたし」
「そうなんですか?」
「ああ、俺の飼ってた猫は白と黒の牛柄の猫だったけどな」
「牛柄もかわいいですよね~」
三芳が牛柄の猫を抱いている姿を想像すると、弘海は何となく微笑ましい気持ちになった。
「そういや弘海の猫を見るのは初めてだな」
三芳は笑って、助手席のドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」
ショーンと一緒にツーシーターの三芳の車に乗り込んだ。
ショーンは弘海の腕の中でおとなしくしている。
三芳が車を発進させた。
「すみません、もしかして……どこかへ出かけるところでした?」
「ああ、いや……今日は暇みたいだから、早く帰らせてもらうことにしたんだ。だから特に用はない」
「雨……ですもんね……」
店を出た時はやんでいた雨が、今はまた強く降り始めていた。
「その猫の名前もショーンっていうんだっけ?」
「あ、そうです。よく覚えてますね」
「そりゃ、旦那と同じ名前だっていうのが印象的だったからさ」
素知らぬふりをして、弘海は笑った。
笑いながら弘海は引っかかりを覚えた。
いくら店が暇だといっても、だからといって三芳がこの時間に帰るなんてことは珍しい。
早朝から夜まで働きづめの橘を気にして、いつも三芳も遅くまで残っているのだ。
橘にしても、三芳が残ってくれればずいぶんと助かるはずなのに。
やはり表面的には関係が修復したように見えても、まだ二人の間にはわだかまりがあるのかもしれない。
弘海はそう思った。
「…………」
三芳が橘のことをどう思っているか……それが鍵かもしれないとショーンは言っていた。
三芳は橘に恋愛感情を抱いているのだろうか……。
「あ、あのぉ……」
「ん?」
「三芳さんって…その……恋人というか……彼女……とか……いないんでしたっけ?」
「ん~……今のところはそういう相手はいないなぁ……」
「そうですかぁ……三芳さん、モテそうなのに……」
弘海が残念そうに言うと、三芳は吹きだすように笑った。
「出会いがなさすぎだろ」
「言われてみれば……そうですよね……毎日、早朝から夜まで働いてるし……」
「もういい加減……合コンでも行こうかな……」
ぽつりと呟いたその言葉は、どこか寂しそうだった。
「あの……好きな人も……いないんですか?」
「まあ……好きな相手ならいるんだけどさ」
「そうなんですか。その人にアタックとか……はしないんですか?」
「うーん……最近はどうでもいいやって思ってしまうようなことも多くて。そろそろ潮時かな……」
「潮時って……まだ言ってもないのに諦めちゃ駄目ですよ!」
「いつまでも待ってるつもりだったんだけど……待ちくたびれたって感じでさ……相手の考えてることもよく解らなくなってきたし……」
三芳は苦笑する。
何となくそれは、橘のことを言ってるのではないかと弘海は直感した。
「気分転換に転職でもしようかな……」
「えええ? そ、そんなことしたら、店が大変なことになっちゃいますよ!」
「健介がいるし、大丈夫だろ。もう昔みたいに経営素人でもないんだし」
「でも……」
三芳が本気で店を辞めることを考えているなんて……。
弘海は驚きとショックでしばらく言葉が出てこなかった。
やはり橘のことが原因なのだろうか……。
「み、三芳さんが店を辞めたら、橘さんだってきっと困ると思いますよ!」
「そりゃ困るだろうけど……でも、あいつはもう一人でやっていけるよ」
「でも……橘さんはきっと……三芳さんじゃないと駄目だと思います……」
「そんなことはないだろ……まあ、この話はもうやめよう。あまり楽しい話でもないし」
三芳はそう言って話題を変えてきた。
車の話や、最近見たテレビの話、近頃流行っている店の話など。
話し出すと三芳は営業もやっているだけあって話し上手で、聞いていてとても面白かった。
けれども、弘海は途切れた橘の話しのことのほうが、ずっと頭の隅に引っかかり続けていた。



少し遠回りのドライブを終えて、車は弘海のマンションの下に着いた。
「お疲れさん。毎日早出ばかりで大変だけど、明日も頼むよ」
「は、はい、送っていただいてありがとうございました」
そう言って車を降りようとして、やはり我慢が出来なくて弘海は言ってしまった。
「あ、あの……でも、諦めちゃ駄目ですよ!」
「え?」
「好きな人への気持ち……相手の人にはその気持ちは伝えてないんですよね?」
「あ、ああ……伝えてないが……」
「絶対に伝えたほうがいいですよ! 俺は……すっごく鈍感で……本当に鈍感で……その上に相手が男だったし、真面目に取り合ってなかったから、せっかく気持ちを伝えてくれても、スルーしたりして……今考えるとけっこう酷いことしてたなって思います」
「…………」
「でも、その人……ショーンはそれでも、俺がどんな態度を取ろうとも、ずっと気持ちを伝えてくれたんです。だから俺……やっと自分の気持ちに気づけて……」
「弘海……」
「あぁ、俺、何言ってるんだろ……あの……勝手なこと言ってすみませんでした! 失礼します!」
弘海は逃げ出すように車から降り、駆け足でマンションのエントランスをくぐった。



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