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「ここかぁ……」
弘海は調べてきた住所に建つマンションを見上げた。
橘のマンションと違うところは、かなりの高層マンションだということだ。
三芳の部屋は、どうやら最上階ではないものの、その付近と思われる上層階にあるようだった。
マンションのエントランスにある呼び出しのインターホンの前で、弘海はしばらく迷っていた。
勢いで三芳のマンションまで来てしまったものの、いったい会って何を話せば良いのだろう。
弘海が会ったところで、かえって状況が悪くなってしまうだけではないだろうか……。
今さらそんなことを考えても仕方がないのは解っているが、なかなかインターホンを押すことが出来なかった。
「ショーン……どうしよう……やっぱり帰ったほうがいいかな……」
弘海が困り果てたように言うと、何を今さら……というような目でショーンは見つめてきた。
「そんな目で見るなよ……」
弘海は言い、もう一度インターホンに手を伸ばして、また手を戻した。
「はぁ……」
部屋番号を押して、呼び出しボタンを押せば良いだけの話なのに、ここまで来てそれが出来ない。
ショーンを抱いたまま、途方に暮れたように弘海がため息をついた時だった。
「何やってるんだ、こんなところで」
「わっ!!!」
気がつくと、後ろに三芳が立っていた。
どうやら買い物の帰りのようで、片手に紙袋に入った食材を抱え、呆れたように弘海のことを見下ろしている。
「あ、あの……え、ええと……み、三芳さんのマンションって……ここでしたよね!」
「だからここにいるんだが」
「は、はは……そ、そうですよね……!」
「どうせ調べてきたんだろう」
「う……そう……ですけど……」
「健介に何か言われてきたのか?」
「い、いえ……俺の独断できました……」
「そうか……」
弘海の返答に、三芳は少し落胆したような表情を浮かべたが、カードキーでオートロックの自動ドアを開けると、弘海を中に促した。
「俺に会いに来たんだろう? 入れよ」
「あ、は、はい……すみません……」
エレベーターに乗り込んだ三芳は、二十一階のボタンを押す。
どうやらこのマンションは二十三階建てのようだった。
「ここって……すごく家賃とか高そうですよね?」
「いや……実は親が税金対策で買った物件だから、管理費と修繕積立金ぐらいかな、毎月払ってるの。あとは毎年の固定資産税と」
「へえ……三芳さんの実家って、お金持ちなんですか?」
「金持ちというか……会社を経営してるからな」
「そうなんだ。すごいですね!」
「まあ……すごいのかな。いろいろ手広くやってるわりに、経営は堅実だし。不況の中でも、割と頑張ってる会社なんじゃないかな」
目的の二十一階に着いたので、弘海は三芳とともにエレベーターを降りた。
三芳の部屋は、どうやらこの二十一階の角部屋のようだった。
「今さらですけど……このマンションって猫連れてきても大丈夫でした?」
沈黙が何となく気まずくて、弘海は三芳に聞いてみた。
「ああ、小動物まではOKってことらしいから、問題ない」
「そっか、よかった」
部屋の鍵を開けて中に入ると、弘海は思わず目を見開いた。
「すっごーい!」
さすがに高層マンションの高層階。
大きく取られた窓からの景色は本当に素晴らしいものだった。
「夜景とか綺麗なんでしょうね~」
「まあ……毎日見てたら、ありがたみも薄れてくるけどな」
「それは贅沢な言葉ですよ! 俺のマンションなんて、隣のマンションが近くに建ってるから、見晴らしは最悪だし。日当たりもいまいちだし」
「まあ……日当たりと見晴らしは、この近辺のマンションの中では一番良いほうだろうな……」
弘海は物珍しく部屋の中を見回した。
橘のマンションの部屋とはまた趣が違う。
家具はシンプルだけど、スタイリッシュで、いかにも三芳が好みそうなものばかりだった。
部屋の一角には大きな水槽があって、そこには色とりどりの小さな熱帯魚が泳いでいる。
「うわー……すごいなぁ……綺麗だなぁ……」
興奮して水槽を覗き込む弘海を見て、三芳が笑う。
「弘海は何でも珍しがるんだな」
「えー、だって、こんなにすごい水槽って初めて見ましたもん」
「その猫……魚を食ったりしないよな?」
「大丈夫ですよ。カリカリが大好きなんで、生きている魚は食べないです」
「そうか。ならよかった」
本当に安心したように三芳が言うので、弘海は少しおかしくなった。
「何か飲むか? っていっても、俺は健介みたいにエスプレッソとか飲む習慣がないから、出せるのは普通のコーヒーか紅茶か、あとは酒ぐらいだな」
「俺、未成年ですよ。だからコーヒーがいいです」
「了解。ちょっと待ってろ」
キッチンに買い物の袋を置いて、コーヒーメーカーに豆と水とをセットする。
しばらくすると、コーヒーの良い匂いが漂ってきた。
「はい、お待たせ」
「あ、すみません、ありがとうございます」
リビングのテーブルにコーヒーを置いてくれたので、弘海はありがたくテーブルの前のソファに座った。
三芳も自分の分のコーヒーを入れて、弘海の傍に腰掛ける。
「で……今日はどうしたんだ? 何か俺に用があったのか?」
「あ、あの……三芳さんが店を辞めるって聞いたので……それで何も考えずに来てしまいました……」
弘海が正直に言うと、三芳は笑った。
「何も考えずに……か。弘海らしいな」
「す、すみません……」
「いや、そんなふうにして何の計画性もなくやって来られると、俺も追い返すことが出来ない。弘海の作戦勝ちだな」
「そ、そんな……俺は別に作戦なんて……」
弘海が困り果てたように言うと、三芳は笑った。
「解ってるよ。弘海がそういう考え方をしないってことは。似てるんだよな、健介と」
「橘さんと?」
「そう。少しぐらいズルくなれば、損をしない……ましてや得をすることだっていっぱいあるのに、それは絶対にしないっていう」
「あぁ……確かに橘さんはそういうところがありそうですよね」
「弘海もそうだよ」
「そ、そうかな……自分のことはよく解らないですけど……」
本当に自分のことは人から言われて気づくことばかりだ。
今だって、三芳がそんなふうに自分のことを見ていたなんて初めて知った。
「だからさ、二人を見ていると、俺って汚れてるよなぁって思うことがけっこうあるんだ」
「そんな……汚れてるなんて、そんなことはないですよ」
「たぶん、健介も俺のそういう汚れたところが嫌になったんだろ」
「三芳さん……」
三芳は微笑を浮かべながらコーヒーを口にしたが、どこか寂しそうな様子だった。



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