FC2ブログ
2019/08:- - - - 1 2 34 5 6 7 8 9 1011 12 13 14 15 16 1718 19 20 21 22 23 2425 26 27 28 29 30 31

休憩室の中から何か言い争うような声が聞こえて、弘海は自分の不安が的中したことを感じた。
さすがに言い争いの中に入っていくことは出来ず、扉の外から固唾を呑むようにして中の様子を伺った。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。さっさと帰れ」
「だから、そんなに大したことないって……」
「大したことあるだろう。熱だってこんなに……」
「触るなって……!」
ガタンと何かが倒れるような音がして、弘海は思わずビクンと体を強張らせた。
「ごめん……」
謝ったのは三芳のほうだ。弘海は多少の罪悪感を感じつつも、扉の隙間から休憩室の中をのぞいてみた。
橘と三芳は、少し距離を置いて対峙している。
うつむいた橘を、三芳が見つめている形だ。
「とにかく……今日だけは俺に任せて帰ってくれないか? 弘海だって心配している」
「だから……少し休んで熱だってさっきよりは良くなったし……」
「良くなってないだろ……お前それ、かなりあるぞ。すぐにでも病院に行ったほうがいいぐらいだ」
「大丈夫だって……」
「お前の大丈夫が信じられるか」
「宗助」
「帰らないというのなら、せめて早仕舞いしろ。バイトへの連絡や今日納品の約束があるところへは俺が連絡する」
「宗助にそこまでやってもらうわけにはいかないよ……」
「それは俺が信用できないということか?」
「そういうわけじゃない……もう辞める人間に何もかも押し付けて帰るわけにはいかないって言ってるんだ」
「もう辞める人間には下手に店に関わって欲しくないと?」
「だから……」
橘がため息をつくのが部屋の外まで聞こえた。
「いつまでも宗助を頼ることは出来ないし、したくない。これまでだって、ずっと宗助は自分のことを犠牲にしてくれていたんだ。これ以上、この店や俺のために宗助を犠牲にさせたくないんだ」
「それは違うぞ。俺は別に犠牲だなんて思ってない。そんなことを思われること自体が心外だ」
「だけど……」
「俺は……お前のために何かがしたかったんだ。それは俺の個人的な感情の問題だけれども、犠牲にしたものなんて何ひとつない。本当は……」
言いかけた言葉を、三芳は飲み込んだようだった。
吐き出すかどうか悩むような表情を浮かべたあげくに、ため息をともに高まった熱を吐き出したようだった。
先ほどまでの興奮気味だったのとは違う静かな声で言う。
「それに……こんなことになったのは、昨日のことのせいなんだろ?」
三芳の言葉に、弘海は思わず首をかしげる。
(昨日……何かあったのかな……?)
そう思っていると、三芳が言葉を続けた。
「お前……昔から思い悩むと熱を出すクセがあるだろ? 俺が……あんなことを言ったから……」
「宗助のせいじゃないよ……少し前から何となく具合が悪いような気がしてたし……」
「変な夢を見たからって、勢いで告白したのはマズかったと思う。悪かった……」
「そんなこと……謝らなくていいよ……」
弘海はようやく二人の話が見えてきた気がした。
三芳はあの夢の後、現実の世界でも橘に告白をしに行ったのだ。
それに対する答えを橘はどう出したのかは解らないが、ともかくそのことで悩んだ末に熱を出したということなのだろう。
橘があんなに目を腫らしていた理由も、何となく理解できたような気がする。
「頼む……今日は俺に任せてくれないか?」
「…………」
「明日からは一切、店のことには関わらない。だから、今日だけは頼む……」
三芳は懇願するように言い、目を伏せた。
「それじゃ……今日はお願いして帰らせてもらおうかな」
「お、おう」
橘のその返事を聞いて、三芳もホッとしただろうが、弘海もホッとした。
橘が休養出来るということとともに、まだ橘は三芳のことを変わらずに信用しているのだということがわかったからだ。
「本当にごめん……もう絶対に宗助には迷惑をかけないでおこうと思ったのに……」
「だから……俺は迷惑だとも思っていない。これまでだって、お前の役に立てることが本当に嬉しかったんだ。今も……少しでもお前の役に立てているのなら嬉しい」
「宗助……」
「じゃ、さっそく手配してくる。お前は必要な指示だけ出したらもう帰れ」
「う、うん……」
遠慮がちに返事をした橘に三芳が笑う気配がして、その足音がいきなり外に向いてきたので、弘海は慌てた。
急いでその場を離れようとした時、橘の声が三芳を引きとめた。
「そ、宗助……!」
「ど、どうした?」
「あの……ありがとう……」
「いや……さっさと帰れよ。今日はもう仕事のことは考えずに静養しろ」
「うん……」
「じゃ、俺は段取りしてくるから」
「あの……!」
「ん? いったいどうしたんだ?」
何度も引きとめようとする橘に、三芳はくすりと笑う。
まるで子供に聞くようなその言葉の響きが優しい。
「何か今日の段取りで必要なことがあれば、今のうちに聞いておくから遠慮せずに言え。だいたいのことは対応できるぞ。一緒にやって来て何年経つと思ってるんだ?」
そう言って促した三芳の言葉に、橘は言葉に迷うように黙り込んでしまった。
三芳は急いでそれを聞こうとはせずに、橘が言うのを待った。
やがて橘は軽く息を吐き、何かの決意を決めたかのように頷いた。
「俺……本当は宗助に辞めて欲しくない。今さらかもしれないけど……ずっとこの店にいて欲しい。その……俺の傍にずっといて欲しい……」
「健介……」
「正直に言うと……宗助とはずっと一緒にいすぎて、この気持ちがいったいどういう種類のものだか俺自身にも理解できないんだ。でも、俺は宗助に傍にいて欲しい……別に店のことだけじゃなく……今までよりもずっと宗助の傍にいたい……」
三芳は迷うように橘に伸ばしかけた手を引いた。けれども、今度はその手を橘がとり、そのまま三芳を抱きしめるようにして背中に手を回した。
「実は……俺も宗助と同じような夢を見たんだ。不思議だな……」
「え? 俺と同じ夢?」
驚いたように問いかける三芳に、橘はくすりと笑う。
「そう……あの公園に行って、お互いの気持ちを話し合う夢」
「へえ……そんなこともあるんだな……」
意外なことを聞いたというように呟いた三芳の言葉に橘は頷いて、
「今まで知らなかった宗助のことも知りたい……そんなスタートでも……いいかな?」
「ああ……十分だ……」
橘はまるでキスをねだるみたいに、少し顔を上げた。
そこへ三芳の唇が重なり、二人は強く抱きしめあっていた。



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

ブルーガーデン
  


関連記事

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日生桔梗

Author:日生桔梗
オリジナルの18禁BL小説を書いています。

下記のランキングに参加しています。
よろしければ投票をお願いします!
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村



駄文同盟

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新トラックバック