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「おーい、次は陸の番だぞ」
 クラスメートに急かされ、慌てて陸は我に返った。
 今は体育の授業中だった。
 クラスを2チームにわけ、ソフトボールの試合をしている。
「ごめん、ぼーっとしてた」
 陸は慌ててバッドを持ち、バッターボックスに立つ。
 少しでも時間が出来るとボーッとしてしまう癖は、あれから十日以上たった今も、なかなか治らない。ぼーっとしている間に考えていることといえば、やはり高天原とアマツのことばかりなのだけど。
 球技も含めて、陸はスポーツはわりと得意なほうだった。野球も得意な分野に入るだろう。
 何度も野球部からの誘いはあったのだが、面倒だから断り続けていた。
 得点を見てみると、陸のチームが一点差で負けている。
(よし……一発打ってやるか)
 陸は張り切ってバッドを振り、ピッチャーのボールを待つ。
 ピッチャーが振りかぶってボールを投げた。
「よし!」
 甘い高めのボールだった。
 バッドにしっかりと手応えを感じ、陸は走った。陸は一塁を一気に駆け抜け、二塁を目指す。ボールはようやくライトを守る者がキャッチし、二塁にバックしようとしている。
(急げば間に合う……!)
 陸は二塁を目指して全速力で駆ける。
 しかし、あと数歩で二塁のベースというところで、いきなり体がふわっと軽くなった。
「え? ちょッ……ちょっと……ッ……!?」
 気がつくと地面がどんどん離れていく。
(こ、これって……まさか……?)
 あの時と同じ感覚に、期待を抱かずにはいられなかった。
(まさか……また高天原へ……?)
 気がつけばもう地面はまったく見えず、どうやら雲の中に突入したらしい。今頃、クラスメートたちは大騒ぎになっているかもしれないと考えつつも、陸の思いはこの空の上に向かっていた。
 雲を突き抜け、しばらくすると上昇の勢いがピタリと止まる。それと同時に、陸の体はどこかに放り出された。
「いたたッ……」
 思わず呻いて辺りを見回すと、見覚えのある風景が目に飛び込んできた。
「あ……」
 そこは間違いなくあの高天原の宮殿だった。
「まさか……こんなことが……」
 驚いたような声はトミビコのものだった。見上げると、なぜか青ざめた顔をして陸を見ている。
「陸」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、アマツが微笑んで見つめていた。
「アマツ……」
「また会えると思っていた」
「俺はもう二度と会えないと思っていた」
「陸……」
 まるで夢を見ているみたいにぼーっとしてしまった陸を、アマツは大きな両腕で抱きしめる。
「でも……なんで……?」
 いったい何故、自分はまた呼ばれたのだろうと陸は不思議に思った。まさかアマツが会いたくて呼んだなんてことはないだろうし。
「またお前の力を借りなければならない」
「え……八岐大蛇は倒したんじゃないの?」
「倒したが、また別のものが現れた」
「ええ? 別のもの?」
「今度は鬼だ。人を喰らう一つ眼の鬼」
「お、鬼!? それって前のより凶暴なんじゃ……」
「そうかもしれない。今はなりを潜めているが、また出てくる可能性がある」
「そうか……それじゃあ大変だよな……」
 そう答えつつも、陸はやはり目的があったから自分が呼ばれたのだということに複雑な気持ちになる。一瞬うかれかけた気持ちは、すぐにしぼんでしまった。
 頭の上のほうで笑う気配がした。
「陸はいつも変わった格好をしている」
「あ……」
 陸は改めて自分の姿を見直してみる。体育の時間だったから上下ともジャージ姿だ。しかも、土にまみれている。どう考えても、こんな豪華な宮殿にはとても似つかわしくなかった。
「ご、ごめん……急に呼ばれたし、その……」
 アマツはまったく咎めているような様子はなかったのだが、陸の心が咎める気がした。
 陸は慌ててアマツの体から離れ、土埃をはたき落とす。そんなことをしたぐらいで、陸のみすぼらしい格好がそれほど変わるわけはなかったのだが。
「そういう服が陸の住む世界では普通なのだろう?」
 問いかけてくる声はどこまでも優しかったが、陸はますます恥ずかしくなってきた。
「い、いや、あの……これは体育の授業中だったから……さすがにこういう場所に来るような服装ではないことは自覚しているけど……」
 陸が困り果てていると、まるで助け舟を出すようにトミビコが声をかけてきた。
「陸さま、着替えを準備しておりますので、こちらへ」
「あ、う、うん……」
「そのままでも構わない。気にするな」
「あ、いい。着替えてくる……」
 自分のみすぼらしい格好がいたたまれなくなり、陸はアマツの腕から離れてトミビコの後をついていった。

 案内された部屋で着替えを済ませる。
 衣服も二度目なので、何とか自分で着ることができた。それでもけっこう時間はかかる。面倒だけど、ジャージでいるよりはよほど気持ち的に楽だった。
「陸さま、大丈夫ですか?」
「あ、うん、ありがとう。何とか……」
 さっきトミビコが陸の顔を見て青ざめていたことが気になったが、今はもう元のトミビコに戻っている。トミビコが呼んだはずなのに、どうして陸の顔を見て青ざめたのだろうか……。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、あのさ……こっちとあっちって、自由に行き来できるものなの?」
 青ざめた理由を聞くのは何だか気が引けたので、陸は違う質問をトミビコに振ってみた。
「いえ……本来なら出来ません。ただ、前回も今回も陸さまのお力が必要だったので来ることができたのです」
「そ、そうか……」
 では、また元の世界に戻ってしまえば、次にここへ来る機会があるとは限らないのだ。陸の力が必要でなくなれば、もう二度と来ることもなくなるのかもしれない。
「…………」
「陸さま?」
 気がつくとトミビコが陸の顔を覗き込んでいて、陸は慌てて首を横に振った。
「あ、ご、ごめん……何でもない」
「陸さまは……こうしてまた呼ばれてしまったことを迷惑に感じてはいないのですか?」
「え? あ、いや……迷惑っていうか……困ってるんだったら仕方ないのかなって感じ……」
「そうですか……陸さまはお優しいのですね」
 トミビコはそう陸の気持ちを思いやったが、陸の本心は違っていた。
 本当は陸自身、もう一度アマツに会いたいと望んでいたことは、今さらトミビコに言うことは出来ない。
(俺って変なのかな……。最初はあんなに抵抗があったのに……今は……)
「でも、陸さまが協力的なお気持ちで助かりました。今回はひょっとすると長くなるかもしれませんので」
 トミビコの言葉に、陸はハッとする。
「な、長くって……どれぐらい?」
「分かりません。このようなことは初めてですので……」
「そうか……」
 そう答えながら、陸自身は複雑な気持ちだった。
 学校や家はどうしようと思うものの、元の世界に戻ればアマツに会えなくなってしまう。自由に世界を行き来できるのなら、一度戻って家族や友人たちに心配しないように伝えてくることも出来るのに。
「もう大丈夫ですか? アマツさまがお部屋でお待ちです」
「う、うん、分かった……」
 心臓がドクドクと早鐘を打っているのを感じながら、陸は慌ててトミビコの後を追いかけた。



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EDIT [2012/10/10 07:56] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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