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 傷の手当を終えると、トミビコは部屋を出ていった。
 何となく沈んだ様子の陸のことを気遣うように、アマツが声をかけてくる。
「どうかしたのか?」
「あ、ううん……何でもない……」
「何でもないという顔ではないな。何があった?」
「あ……えっと……アマツのことが心配だったから……」
 心配だったのは事実だが、今心の中の多くを占めているのは別のことだった。けれども、それを悟られるのはちょっとカッコ悪い気がした。はっきり言ってその正体は嫉妬だ。男に対してこういう種類の嫉妬を感じるなんて、陸は自分でも驚いていた。
「陸……」
 傷だらけの手を伸ばして、アマツが陸の体を抱きしめてくる。
「お前には迷惑をかけるな……」
「め、迷惑は別に……かけられてないと思うけど……」
「今回はもう少し様子見をすることになった。少し長くいてもらわないといけないかもしれない」
「う、うん……そのことはトミビコに聞いたよ」
「大丈夫なのか?」
「うん……まあ……仕方ないかな。一度戻ると簡単には戻ってこれないみたいだし」
「そうだな……自由に行き来できる方法があれば一番良いのだが」
「そうだね……」
 そう答えながら、ひょっとしてアマツは陸を早く元の世界に戻したいのだろうかなどと勘ぐって考えてしまう。
 陸だって元の世界のことはもちろん気になるし、きっと家族や友人たちに心配をかけているはずだから申し訳ないと思うのだが……。
「…………」
 でも、ここを離れれば二度と戻ってこれないことを考えると、陸は自分が元の世界に戻りたいのか戻りたくないのか分からなくなってきた。
 かといって、二度と元の世界に戻れないと言われても困ってしまうのだが。
 アマツは何も思わないのだろうか。陸が元の世界に戻ってしまうことに対して。仕方がないと諦めてしまうのだろうか……。
「陸……」
 呼ばれて顔を上げると、アマツの顔が近づいてきた。陸は何もかもを忘れようとするかのように、アマツの唇を受け止めていく。

 翌日は退治する鬼も出なかったので、アマツとのんびり過ごす一日になった。
 こうしている間にも、家族や友人たちは心配しているかもしれないと思うと、何だか申し訳ない気持ちになってしまうが。
 陸としては勝手に帰ることもできないので仕方がないと割り切ることにした。
(っていうか……日に日にアマツと離れたくない気持ちが強くなっていく……)
 いつかは元の世界へ帰る日が来るのだろうが、その時にアマツと別れることに自分が耐えれるかどうかが心配になってくる。
「陸? どうした?」
「あ、ご、ごめん……何の話をしてたっけ?」
「学校という場所で仲が良かった彰彦の話」
「ああ、そうだった。うん、仲はいいんだけどさ、彰彦は学校でモテモテでさ……それに比べて俺は……」
 色とりどりの花が咲き乱れる庭園のような場所で、のんびりと飲み物を飲みながら、アマツは陸の世界の話を聞きたがった。
 陸は学校のシステムや、友達のこと、家族のことなど求められるままに話していく。
 陸からしてみれば、珍しくもなく変わり映えもしない日常の話なのだが、アマツにとっては面白いらしい。聴き上手なアマツに促されるようにして、陸は洗いざらい喋っていた。
 逆に陸のほうからアマツに質問をすると、アマツも隠すことなくいろいろと話してくれる。せっかくなので陸は気になっていたことを聞いてみた。
「高天原と引き換えに力をお祖父さんに渡しちゃったってトミビコに聞いたけど……こんなふうに困ることになるって考えなかったの?」
「いや……それは逆だな」
「逆?」
 アマツの言葉の意味が分からなくて、陸は首をかしげた。
「高天原を賜れば、もう力を持つ必要がないと思った。だから高天原をもらった」
「うーん……よく分からない。要するにアマツは力がいらないって思ってたってこと?」
「そういうことだな。もっと分かりやすくいえば、誰にも咎められずに力を放棄する理由を探していたのだ」
「そう……なんだ? でも、どうして? 力はあるほうが便利なんじゃないの?」
 陸が素直に思っていることを口にすると、アマツは何か苦いものを思い出したような顔をしながら首を横に振る。
「力などあるから揉めたり誰かを傷つけたりすることがある……そう思っていたのだが。実施には、俺自身は力をなくしても、この高天原を所有しているということ自体が力を持つということに見える者たちも少なくはないようだな」
 アマツは難しいことを言っているが、陸は何となくその意味が理解できるような気がした。
「ひょっとして……そういう連中が、八岐大蛇や鬼を連れてきてるの?」
「たぶん、そうだろう。本来、高天原は理想の天地としての営みを造り上げる場所なのだ」
「そうなんだ? 元から理想の天地っていうわけじゃない?」
 陸の問いかけに、アマツは頷く。
「今もまだ途上だな。空があり、地があり、民がいて動物たちがいる。それをどう運営していくのかが俺に与えられた役割だ」
「へえ……」
 難しいけど、陸なりにアマツの話を要約してみると、要するにこの高天原は一種のモデルケースとしての役割を担っているのだろうか。完成した場所ではなく、理想の場所を作るためのその実験台のような場所なのかもしれない。
(だったら、最初から全部理想のものにしてしまえばいいのに……)
 神様の考えることはよく分からないと陸は思った。
「だからここには本来、八岐大蛇や鬼の住むべき場所はない。おそらくそういう生き物が生息する根の国や中津国といった別の場所から連れられてきたものだと思う」
「なんか難しいけど……今の状態はアマツにとっては望ましくないってことだよね?」
「そうだな。力は人を狂わせる。争いは人に悲しみしか与えない。そういうものの介入しない天地を作ることが俺に与えられた役割だったのだが……」
 言葉を途切らせたアマツが、どこか遠くに目を向ける。
(アマツは……何を考えてるのかな……?)
 その表情からは、内心のことまでは読み取ることができない。
 力を取り戻して戦えば、鬼も八岐大蛇も倒してしまえるほど強いのに。
 その力を不要だという。
 むしろ力を憎んでいるようなところすらある。
 その理由は分からないし、アマツは話してくれないけれども、きっと陸と出会うずっと以前に、何かアマツにとって辛いことがあったのではないだろうかと思った。



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EDIT [2012/10/15 08:06] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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