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 この世界に来て初めて、たった一人で夜を過ごすことになった陸は、当然のことながら眠れそうになかった。
(こっちに来るまでは、一人で寝るのが当たり前だったのにな……)
 最初は寝台に入って眠る努力もしてみたが、やはり目が冴えて眠れそうにない。
 仕方がないので部屋に併設されているテラスのような場所に出てみた。夜風はさすがに少し冷たかったけれど、それでも一人で部屋の中にいるよりは心地よい。
「学校とかどうなってるのかな……」
 もう一週間以上も、陸は学校に行っていない。授業中に突然消えて戻らない息子を、両親はどう思っているだろう。友達はどう思っているだろう。
 それを考えると罪悪感で胸が締め付けられそうになるけれども。
(それでもやっぱり……アマツと一緒にいたい……)
 二度とこの世界に戻ってこれないのなら……二度とアマツに会えなくなってしまうのなら……。
 両親や友達に申し訳ないと思いつつも、陸はアマツを選んでしまうだろう。
「やっぱり本気で恋しちゃったんだろうな……」
 ため息をつきながら空を見上げると、大きな丸い月と小さな星が輝いている。
 星座のこととかはよく分からないけれど、眺めてみても陸の世界の夜空と変わりがあるようには見えない。
 ここへ来るときには雲を飛び越えて来たけれども、実は大地のどこかでこの世界と向こうの世界は繋がっているのではないかと思ってしまう。
 もしそうなら、元の世界に戻るしかないということになっても、どうにかしてこちらへ戻ってくることは出来ないのだろうか……。
「はぁ……」
 ため息ばかりついてしまうのは、陸には分からないことだらけだからだ。この高天原のことさえよく分からないのに、今度は根の国などという死者の世界まで登場する。正直にいってこの展開についていくのは大変だ。
 でも、頑張ってついていかなければ、アマツとずっと一緒にいることは出来ない。
「陸さま」
「え? あれ?」
 テラスの下から声が聞こえてそこを覗いてみると、庭にトミビコが立っていた。
「どうしたの? もうアマツとの話は終わった?」
「はい。ですが、アマツさまは少し一人で考えたいとのことでして……」
「そっか……」
 やはりアマツは今夜は部屋に戻ってこないのだと分かり、陸は少し落胆した。今夜は戻ってこないと理解しつつも、心のどこかで期待をしてしまっていたのだろう。
「陸さま、まだお眠りにならないのでしたら、少しお部屋に伺ってもかまいませんか?」
「うん? いいよ」
 トミビコが改まった様子だったので、少し不思議に思ったけれど。どうせ今日はあまり眠れそうにない気がしたので、陸はあっさりと頷いた。



 部屋に入ってきたトミビコは、何かを思いつめているような様子だった。
「どうしたの? 何か進展でもあった?」
「いえ……アマツさまはその方法は絶対にならぬと許可をいただけませんでした。陸さまのご希望に添えず、申し訳ありません……」
「そうかぁ……ほかに方法って……ないんだよな?」
「そうですね……私に可能な方法はそれだけしかないです」
「それってさ、どういう方法? 根の国っていう場所に行って、俺は何をすればいいのかな?」
 さっきは聞こうとしたらアマツが止めてしまったので具体的な方法については聞けなかったのだ。
 陸の問いかけに、トミビコは遠慮がちに口を開く。
「それは……お話してもよろしいでしょうか?」
「うん……聞くだけなら、アマツだって怒らないと思うし。あ、もちろん、アマツにも内緒にしておくよ」
 陸が言うと、トミビコは思い切るように首を縦に振った。
「分かりました……では、お話します。本当にそれほど難しいことではないのです」
「そうなんだ……」
「はい。陸さまは根の国へ行き、指定された場所にある竪琴を持って帰ってきていただきたいのです。その竪琴は、持ち主の願い事を一度きりだけ何でも聞いてくれます。持ち主になるためには、陸さまご自身でその竪琴に触れ、根の国から持ち出さなければなりません」
「か……勝手に持ち出したりして……怒られたりしないのかな……根の国にとって大事な竪琴じゃないの?」
「それは誤って向こうに紛れ込んでしまったものですので、そもそもはこちらのものなのです。竪琴はこちらに戻ることを望んでいます。でも、根の国と高天原を生身のまま行き来することは通常では出来ません。ですので竪琴はもう長い間戻ってくることが出来ず、それゆえに竪琴を持ち帰ったものの願いを叶えるのだといいます」
「そ、そうか……でも生身のまま行き来できないってことは、俺も一度死なないといけない……ってことはないよな?」
「それは大丈夫です。陸さまの場合は特殊なのです。どちらの者でもないので、生身のまま行き来ができるのです」
「へえ……」
 死者の国に紛れ込んで、その国にあるものを持ち出すというのは、陸からしてみればけっこうな冒険だ。けれども、トミビコが難しくない、問題ないと言うのだからきっと大丈夫なのだろうと思う。そう思わなければ、思い切ることなんて出来そうになかった。
「でも、俺はトミビコみたいに知識もないし……本当に一人で行って戻ってこれるのかな……」
「大丈夫です。そのための手順をお教えします。その手順通りに行えば、それほど手間はかかりませんし安全です」
「そうか……じゃあ、そんなに難しいことじゃない?」
「はい。おそらく、陸さまであれば問題なくこなしていただけると思います」
「そ、そうか……」
 アマツは反対していると言っていたけれども……。
 たったそれだけのことで、アマツとずっと一緒にいることが出来る。しかもトミビコの手順通りにすればほとんど危険がないのだというし……。
(でも、本当に俺にできるのかな……)
 陸の心は揺れ動いていた。
 アマツは陸が根の国に行くことに、きっと賛成することはないだろう。陸に危険が及ぶなら、二度と会えなくても良いと言うぐらいなのだから。
 たとえば陸がアマツの立場でも、そう言うと思う。もしもアマツに少しでも危険が及ぶのなら、それは絶対に賛成できない。
 だから、反対するアマツの気持ちも、陸にはとてもよく分かるのだ。
(アマツに内緒で行く……?)
 今、目の前にはその方法を知っているトミビコがいる。アマツは今夜はこの部屋に戻っては来ないだろう。
 陸は自分に出来ることはすべてやってみたかった。それをすべてした上でなら、もしもアマツと二度と会えなくなるようなことがあったとしても、少しは諦めがつきそうな気がする。
 今のままでは何もかもが中途半端で、最初から諦めるしかないような状態だ。そんな状態ですべてを終わらせてしまうのは絶対に嫌だと思った。



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EDIT [2012/10/22 08:08] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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