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「そう、よくやったわね、トミビコ」
 陸を根の国に送り込んだことを報告するために、トミビコはヒルコの元を訪れていた。ヒルコはトミビコの話を聞くと、上機嫌で微笑んだ。
 けれども、そんなヒルコとは裏腹にトミビコの気持ちは沈んでいた。
 思い切って陸が根の国へ行くように仕向けてみたものの、後になってトミビコは少し後悔をしていた。やはり陸を出すべきではなかったのかもしれない。いっそのこと、元の世界へ送り返していれば良かったのではないだろうかと。
 そうすれば、トミビコの望み通りにアマツと陸を引き離すこともできるし、その結果、アマツの心をトミビコが手に入れることも出来たかもしれない。何よりも、こんな罪悪感を感じることもなかっただろう。
 アマツが陸の不在に気がつけば、宮殿は大騒ぎになるだろう。けれどもその時にはもう、陸は高天原にはいない。
「あ、あの……陸さまのお命まで奪おうというわけではないですよね……?」
 思いついて心配になり、トミビコは聞いてみた。
「馬鹿ね、そんなことをしたら使い道がなくなっちゃうじゃないの」
「そ、そうですよね……」
 陸を殺すところまでは考えていないことが分かり、トミビコは少し安心したのだが。
「でも、ちょっと辛い目には遭ってもらうかもね」
「え、辛い目って……」
 いったい陸に何をするつもりなのだろうか。隔離するだけではないのだろうか。ヒルコはそもそも嗜虐的なところが多分にあり、そのヒルコの口から辛い目に遭ってもらうなどという言葉が出るなど、本当に不吉で仕方がない。いったい陸をどうするつもりなのだろう……。
「兄さま、来て」
 ヒルコが呼ぶと、その影から男が一人姿を現した。
「ア……アハシマ……さま……」
 出てきたのはオノコロ島に幽閉されているはずのアハシマだった。
 しかし、そのアハシマはトミビコが知っているアハシマではなかった。見た目はアハシマなのだが、眼光が鋭く、廃人同様だったはずなのに、今は笑みをうかべ、ヒルコを見つめている。
 つい先日、トミビコが様子を見に行った時にはかなり調子が悪く。起き上がることも話すことも出来なかったのだ。その時もヒルコが来た直後だということで、特にアハシマの調子は悪かったのだ。
 立ち上がって自分の足で歩くなど、あの時のアハシマからは想像もつかない。
 けれどもやはり……目の前の人物はアハシマに違いなかった。
「あ、あの……これはどういう……?」
「あら……トミビコは忘れちゃたの? アハシマ兄さまのこと」
「い、いえ……でもあの……」
「これが本当のアハシマ兄さまよ。ふふ、ねぇ兄さま?」
 媚びるような視線をヒルコが向けると、アハシマはニヤリと笑う。アハシマの様子も豹変しているが、ヒルコも何だかいつものヒルコとは少し違う気がした。ヒルコはずっと、アハシマのことを憎んでいたはずだ。それなのに今はアハシマにぴったりと寄り添うようにしている。
 しっかりと背筋を伸ばして立つアハシマは男らしく、少し痩せ気味ではあるものの、アマツにも見劣りしないほどだ。
「どうしたのだ、トミビコ? 顔が青いぞ」
「え、ええと……あの……」
 その声も、確かにアハシマのものだった。しかし、トミビコが知っているアハシマの声は弱々しく、しかし限りなく優しい響きを持っていた。その声音に比べると、今のアハシマは自信に満ち溢れているが、声はどこまでも温度が感じられない。
 本当にこの人物がアハシマなのだろうか……トミビコは改めてそう思った。
「ふふ、これからはますます忙しくなるわよ、トミビコ」
「え……?」
 顔を上げたトミビコにそのことを告げたのはアハシマだった。
「アマツを高天原から追放する。そして、俺たちが高天原の覇者になるのだ」
「うふ……素敵よ、アハシマ兄さま」
 仲良く寄り添うヒルコとアハシマの姿を見て、トミビコはようやく自分がとんでもないことをしてしまったことに気づいた。



「うはぁ……こ、この姿のままでは帰れないよな……」
 自分の姿を水面に映してみて、陸は途方に暮れそうになる。トミビコからもらった薬を使い、根の国の住人のように姿を変えたのだが……。
 爪は恐ろしいほどに伸び、頭には小さな角が二本はえ、尻の上には細い尻尾まで生えている。顔のかたちまでは変わっていないが、その口元は小さな牙が姿をのぞかせる。
「これって……鬼というか、悪魔というか……」
 鬼というほど恐ろしい面相ではないので、悪魔といったほうが陸には近い気がした。
 衣服はそれまで着ていたものではなく、ボロボロの布のようなものに変化している。
それにしても、こんな格好で高天原に帰れば、陸がアマツから退治されてしまうだろう。
 トミビコの話では、この薬の効き目は三日ほどなので、それまでに竪琴を探しだし、根の国を脱出する必要があった。
「ええと、竪琴の場所は……っと……」
 竪琴の場所についても、トミビコが詳しい地図を書いてくれていた。ただ、高天原とは違い、根の国は岩や急な坂道が多く、おまけにとても通れそうにない湯気の吹き出た沼のような場所もあり、スムーズに見つけることは難しそうだ。
 足場は大小の石があちこちに転がっていて、下を気をつけながら歩かないと転んでしまいそうだ。
「だ、大丈夫かな……俺……」
 不安を抱えながらも、陸は歩き始める。先のほうには根の国の住人らしき者の姿も見え始める。
 トミビコに注意されたのは、根の国の住人とは目を合わせてはいけないということだった。目だけは隠しようがないので、目が合った瞬間に陸が異分子であることがバレてしまう可能性があるのだという。
 さらに言われたのは、もしも根の国の住人に声をかけられた場合、その問いかけを絶対に無視してはならないのだという。さらには、一度目で問いかけの問いに答えてはならないのだともいう。つまり、一度目ははぐらかさないといけないらしい。
 たとえば、今日は天気が良いですね、などと言われた場合、天気の話に乗ってはいけないのだ。まずは違う話で答える。さらに天気の話を続けてきたら、もう一度別の話をする。そして三度目にようやく天気のことについて答えても良いという決まりごとがあるらしい。
 いったいどうしてそんなややこしい決まりごとがあるのかは分からないが、それさえ守っていれば問題なく進めるはずだとトミビコは言った。
「でも、トミビコは根の国のことにどうしてこんなに詳しいのかな……」
 高天原と根の国の交流はまったくないと言っていたけれど、こんなにも詳しいのはそういう文献か何かがあるのだろうか。
 少し不思議にも思ったけれど、ともかく三日間という期限つきなので急がなくてはならない。陸は足を急がせた。



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EDIT [2012/10/24 08:07] 高天原で恋に落ちた Comment:0
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