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日曜日はすぐにやって来た。
昼前に起きだした二人は、まずは買い物に出かける。
冷蔵庫にあるものだけで作ろうと思うと、どうしたって悠樹の技術が足りなかった。
漣なら簡単にやってしまうのだろうが。
車に乗ってちょっと高級な食材も扱う近所のマダムたち御用達のスーパーにやって来た。
マンションから歩いてすぐのところにもスーパーはある。
けっこう頻繁に特売なんかもしていて、どの時間帯に行っても込み合っている人気の店だ。
なぜそこに行かないのかと不思議に思って悠樹は漣に聞いてみた。
普通のスーパーでは、漣のほしい材料がそろっていないことがあるからだという。
なるほど、と悠樹は妙に納得した。
スタート地点からまず違っていることに気づいたからだ。
悠樹は以前に自分で料理を作ったとき、迷わずにその近所のスーパーで買い物をした。
そのこともきっと、料理がうまくいかなかったことの原因のひとつなのかもしれない。
そんなふうに、ちょっと勘違いした納得をしつつ、カゴを手にとってスーパーの中を歩く。
「ええと、アボガドと……あと……」
「ズッキーニ」
「ああ、それだ。ズッキーニってどこに売ってるんだろ」
「アボガドの近くにあるだろ」
「ホントだ。よく見てるね~」
妙なところに感心しつつ、漣の指示通りに買い物カゴに食材を入れていく。
料理をしたことのない悠樹は、アボガドやズッキーニを食べたことはあっても、調理前のものを見ることはなかった。
それでいまいち見渡しただけではピンと来ないのだ。
「あとはパプリカと……セロリと……」
「パプリカはあっち。セロリは向こう」
悠樹がめまぐるしく首を動かしている間に、漣はもう目当てのものを見つけてしまっている。
背が高いということもきっと有利に働いているのだろう。
そんなことを考えながら、悠樹は買い物カゴに次々と食材を入れていった。



買い物を終えた悠樹は、さっそくキッチンで漣から野菜の切り方から教わる。
教えられた通りに切っても、漣のように美しく切りそろえるのは難しかった。
それにスピードにかなりの難があった。
3つのアボガドのうちのひとつを悠樹が切っていたが、いつの間にか漣が残りの2個を切り終え、先に次の野菜の下ごしらえを始めている。
どの野菜も、一個だけは悠樹の練習用に残してくれていたが、しまいには悠樹の練習用の野菜を残してほかの下準備は先に終わってしまっているという有様だった。
いつになく漣がそわそわとした様子でいるのが、何だか申し訳ない気分だった。
「ご、ごめん……遅くて……」
「急がなくていい。危ないから」
「危なくは……ないと思うけど……」
「ちょ……よそ見するな……っ」
「あ、は、はい……」
再びちゃんと手元に目を戻した悠樹を見て、漣は軽く息を吐く。
「包丁を使わない料理にすれば良かったな……」
「う……ご、ごめん……」
「心配で見ていられない」
確かに、悠樹の手つきは危なっかしかった。
包丁の握り方から野菜の持ち方まで教えたものの、だからといって、すぐに出来るようになるものでもない。
「これさ……」
「だから、包丁使いながらよそ見をするなって」
「う……ごめん~……」
「前に料理をしたときも、こんな調子だったのか……」
「う、うん……だいたいこんな感じだったと思うよ……」
その言葉を聞いて、漣は大きくため息をつく。
「子供用の怪我をしない包丁でも買ってくるか……」
真剣に漣がそんなことを呟きだしたので、悠樹はあわてて首を横に振った。
「さ、さすがにそれは……いちおう俺にもプライドってものが……」
「プライドよりも、安全が第一だ」
「プライドだって大事だよっ」
「だったら、子供用の包丁で上手くなったら、本物の包丁を使わせてやる」
「えええええ!?」
とうとう包丁禁止令まで出てしまった。
慣れない包丁を使い続けて、手元もずいぶん怪しくなっていた。
「こっちに貸してみろ」
「ええええ?まだ途中だよ!?」
「いいから」
漣にしてみれば気が気でなかったのだろう。
不服そうな悠樹から包丁を取り上げ、残りの作業をすべてさっさと片付けてしまった。
「せっかく料理を教えてもらえると思ったのに……」
少し拗ねたように悠樹が言うと、漣は思わず苦笑する。
「包丁が危ないものでなかったら、いくらでも教えてやったんだが……」
「だ、大丈夫だよっ、慣れでしょ、慣れっ」
「最初は俺もそう思ったからやらせてたんだが……ここまで危険だとは思わなかった……」
「う……」
「お前が料理を作って待っててくれるっていうのは、なかなか魅力的な提案だったんだけど……料理を作るたびに俺の寿命が縮まりそうだ」
漣の寿命を縮めてまで料理をするのは悠樹の本意ではなかったので、料理をすることは諦めることにした。



食事の最中、悠樹は先日久しぶりに見た文礼ことを何度も口にしようとしてやめた。
テレビのニュースに映っていたということを伝えるだけのはずなのに、何となく言えなかった。
リビングで悠樹はレポートを書き、漣は英字新聞を読んでいたが、悠樹の手は先ほどからまったく動いていなかった。
「はかどってないな」
「あ、う、うん……」
「手伝おうか?」
「い、いい……自分でする。っていうか、今日はもうやめようかな……」
そう言って、悠樹はノートパソコンを閉じた。
漣は新聞を置いて、悠樹の頬を撫でながら、その顔を覗き込んだ。
「何かあったか?」
「う、ううん……」
「嘘はつくな」
「嘘……じゃないけど……」
漣に目を見つめられると、何もかも見透かされている気がして、悠樹はそれ以上黙っていることが出来なかった。
「言う必要があることなのか……解らなくて……」
「お前が気になっているのなら、それは言う必要のあることだろ」
「…………」
それでも口を開こうとしない悠樹を抱き寄せ、漣はその額に軽く唇で触れる。
「言ってみろ。今日は言うまで寝かせないぞ」
そうまで言われて、悠樹は仕方なくため息をつく。
「文礼……」
「え……」
思いもしなかった名前が悠樹の口から出て、漣は一瞬、顔色を変えそうになってしまった。
「文礼が……どうかしたのか?」
「少しだけど、テレビに映ってたよ……」
「テレビに?」
「ニュース……中国人企業家って人の後ろに……保険か何かで日本に参入するとか何とかってニュースで……」
「ふむ……」
漣はわざとらしく知らないフリをして見せたが、そのニュースのことは知っていた。
その中国人企業家というのが、文礼の今の所有者であるということも。
文礼がテレビに映っていたということまでは、さすがに知らなかったが。
「それが言いたかったこと、それだけ……」
「そうか……」
漣は短く答えて、悠樹に口付けをする。
その口付けを受け止めながら、悠樹は文礼の名を口にした瞬間の嫌な感覚が少しずつ薄れていくのを感じる。
さらにその感覚を忘れようとするかのように、自分からも腕を伸ばして、漣を強く求めていった。



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EDIT [2011/07/12 07:05] Breath <2> Comment:4
このコメントは管理人のみ閲覧できます
[2011/07/12 14:28] EDIT
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[2011/07/12 23:06] EDIT
>シークレットLさん

コメントありがとうございます!
また、誤字のほうも教えてくださってありがとうございます!
先ほど訂正いたしました!

過保護……魅力的な言葉ですね(笑)大好きな言葉です!
確かに漣がいる限り、悠樹の自立は絶望的すぎるかもしれないですね(笑)

文礼の物語もこれから徐々に進行していく予定です!

朝っぱらからこれはどうなの?って思うような内容のときもありますが、
また懲りずに読みに来ていただけるとうれしいです♪
[2011/07/13 07:13] EDIT
>シークレットAさん

コメントいつもありがとうございます!
コメントがあると、「あっ」って思ってうれしくなって、ドキドキしながら読ませていただいてます(笑)
本当にいつも励まされていますよ!ありがとうございます^^

漣も本当は悠樹にご飯を作って待っててもらいたかったと思うんですけどね(笑)
包丁があまりにも危険すぎました(汗)

また次回の更新もがんばりますので、読みに来ていただけるとうれしいです
[2011/07/13 07:27] EDIT
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